れたは宜いが、是を取って見れば同類に落すといったが、困ったな、あゝもう往ってしまったか、立派な男だ、婆アさまは何処《どこ》まで烟草を買《け》えに往ったんだろう尤も要《い》らないのだ、人払《ひとばれ》えの為に買えに遣ったんだが余《あんま》り長《なげ》えなア」
と独言《ひとりごと》をいっている後《うしろ》から、
男「おい作」
作[#「作」は底本では「男」]「え、誰だえ己を呼ばるのア誰だ」
男「お、己だ、久しく逢わねえのう」
八十四
作「誰だ、人が何処《どこ》にいるのだ」
と云いながら、方々見廻し、振返って見ると、二枚折《にまいおり》の葮《よし》の屏風の蔭に、蛇形《じゃがた》の単物《ひとえもの》に紺献上の帯を神田に結び、結城平《ゆうきひら》の半合羽を着、傍《わき》の方に振分《ふりわけ》の小包を置き、年頃三十ばかりの男で、色はくっきりと白く眼のぱっちりとした、鼻筋の通った、口元の締った美《い》い男で、其の側に居るのは女房と見え、二十七八の女で、頭髪《あたま》は達磨返しに結び、鳴海《なるみ》の単衣《ひとえ》に黒繻子の帯をひっかけ[#「ひっかけ」に傍点]に締め、一杯
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