と思い、
 花「まアそんなに押えられては困りますね、待ちなさい上げますよ、達《た》ってと云えば上げますよ/\」
 武「呉れぬといえば許さぬ、浪人の身の上|切取《きりとり》強盗は武士の習い、云い出しては後《あと》へ引かぬからお気の毒ながら切り刻んでもお前の物は残らず剥《は》ぐぜ、遁《のが》れぬ事と諦めて出しな、裸体《はだか》はお前の商売だ、裸体で行《ゆ》くのは何《なん》でもないわ」
 花「だから上げるけれども、待ちなさいよ」
 と左の手に持って居た傘をぽんと投出し前から胸倉を取って押えて居る一人の帯を押えて、
 花「お前さん、そう胸倉を押していては私《わし》は着物を脱ぐことが出来ぬから、胸倉を緩《ゆる》めて、裸体《はだか》になりますよ、私も災難じゃア、寒くはないから、私に裸体になれてえばなりますから、胸倉を押えていては脱げませんから緩めて」
 前の奴のうっかり緩める処を見て、
 花「なにをなさる」
 といいながら一人の奴の帯を取ってぽんと投げると、庚申塚を飛越して、後《うしろ》の沼の中へ、ぽかんと薄氷《うすごおり》の張った泥の中へ這入った。すると右の手を押えた奴は驚きバラ/\逃げ出した。
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