違いで、金も何もない、角力取だよ」
 武「金がなければ気の毒だが帯《さ》して居る胴金《どうがね》から煙草入から身ぐるみ脱いで行って貰い度《た》い」
 花「そんなこといって困りますよ、身幅《みはゞ》の広いこんな着物を持って行ったって役に立ちはしません、煙草入だって、こんな大きな物持って行ったって提げられやあせん、売ったって銭にもならぬに困りますよ、然《そ》う胴突《どうづ》いては困るよ/\」
 といいながら段々花車は後《あと》へ下《さが》ると、後《うしろ》の見上げる様な庚申塚の処へこう寄り掛りました。前の奴は二人で、一人は右の腕を押《おさ》え、一人は胸倉を取って押える、後《うしろ》の奴はせつない、庚申塚と関取の間にはさまれ、
「もっと前に」
 といっても同類の名をいうことが出来ない。此の三人は安田一角の廻し者、花車を素っぱだかにしてなぶり殺しに致すようにすれば、是《こ》れだけの手当を遣るということに疾《と》うより頼まれて居る処、出会って丁度幸い、いゝ正月をしようという強慾非道の武士三人、漸《やっ》と捕《とら》まいたが、花車は怜悧《りこう》ものだから、此奴《こやつ》らは悪くしたら廻し者だろう
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