本ありまして、前には沼があり其の辺《ほとり》に枯れ蘆《あし》が生えております、ずうッと見渡すばかりの田畑、淋しい処へばら/\降っかけて来る中をのそり/\やって来ると、突然《だしぬけ》に茂みからばら/\と出た武士《さむらい》が、皆面部を包み、端折《はしおり》を高くして小長《こなが》い大小を落し差しにしてつか/\と来て物をもいわず花車の片方《かた/\》の手を一人が押える、一人は前から胸倉を押えた、一人は背後《うしろ》から羽交責《はがいぜめ》に組付こうとしたが、関取は下駄を穿いており、大きな形《なり》で下駄穿《げたばき》だから羽交責|処《どころ》ではない、漸《ようや》く腰の処へ小さい武士《ぶし》が組付きました。

        八十

 花車は恟《びっく》りしたが、左の手に傘を持って居り、右の手は明いて居りましたが、おさえ付けられ困りました。
 花車「なんだい、何をなさる」
 武士「我々は浪人者で食方《くいかた》に困る、天下の力士と見かけてお頼み申すが、路銀を拝借したい」
 花「路銀だって、あんた、私《わし》はお前さん角力取で金も何もありはしないが、困りますよ、そんなことして金持と見たは眼
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