誠にまアどうも明日《あした》立つだって、魂消て来たでがんす、どうもこれ名残い惜くって渡口まで送るという者《もん》が沢山ござえます」
 母「ありゃまア、送らねえでも好《え》えよ、用がえれえに」
 太「なに用はなえだから皆《みな》送り度《て》えと思《おめ》えまして、名残い惜いが寒《さみ》い時分だから大事にしてねえ」
 母「はい有難う、又祝いの餅い呉れたって気の毒なのう、どうか婆様《ばあさま》ア大事にして」
 太「ヘエ婆《ばゝ》アもどうかお目に掛り度《て》えといっております」
 母「おゝ誰だい、さア此方《こっち》へ這入りな」
 甲「ヘエ、誠にはア、魂消まして、どうかまア止め度《て》えといったら止めてはなんねえって叱られた、随分道中を大事に」
 九「ヘエ御免」
 母「誰だい」
 九「九八郎で、誠にどうもさっぱり心得ませんで、急にお立だと云うこッて、お名残い惜《おし》ゅうござえます」
 母「おや/\上《かみ》の婆様《ばゞさま》、あんた出《で》で来《き》なえで好《え》えによ」
 婆「はい御免なさえ、誠にまアどうも只お名残い惜いから、どうぞ碌に見えない眼だが、ちょっくりお顔を見てえと思ってお暇乞《い
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