隅「先生/\もうお寝《やす》みなすったか」
 安「うーん貞藏は寝たか」
 隅「はい能く寝ました、大層酔いましてねえ」
 安「酔っても宜《い》いから、あんな奴に構うな、寝ろよ」
 隅「寝ろって夜具がありません、私は食客《いそうろう》でございますから此処《こゝ》に坐っています」
 安「そんな詰らぬ遠慮にはおよばぬ、全く疑念が晴れて、己の女房になる気なら真実可愛いと思うから、手前に楽をさして真実|尽《つく》すぞ」
 隅「誠に有難いこと、勿体ないけれども、そんなら此の掻巻の袖の方から少し許《ばか》り這入りまして」
 安「いや少し許りでなくって、たんと這入れ」
 隅「それじゃア御免なさいまし」
 と夜着《よぎ》の袖をはねて、懐中から出した匕首を布団の下に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《はさ》んで、足で踏んで鞘を払いながら、
 隅「じゃア御免遊ばせ、横になりますから」
 安「さア這入れ」
 と一角が夜着の袖を自ら揚げる処を、
 隅「亭主の敵」
 と死物狂いに突掛《つっかゝ》るという。お話二つに別れまして麹屋では更に斯様《かよう》な事は存じません。暁方
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