「さア富さん此方《こっち》へ、取次も何もなしにずか/\上《あが》って好《い》いじゃないか、さア此方へ来て下さい」
 富「えー其の後《ご》は存外御無沙汰を、えー毎《いつ》も御壮健で益々|御出精《ごしゅっせい》で蔭ながら大悦《たいえつ》致します、関取は大層評判が好《よ》うげすから場所が始まりましたら、是非一度は見物致そうと心得ていましたが、御案内の通りさん/″\の取込で、つい一寸の見物も出来ません、併《しか》し御評判は高いものでござります、昨年から見ると大した事で、お羨《うらやま》しゅう、実に関取は身体も出来て入《いら》っしゃるし、殊《こと》には角力が巧手《じょうず》で、愛敬があり、実に自力のある処の関取だから、今に日の下|開山《かいざん》横綱の許しを取るのはあの関取ばかりだといって居ます」
 花「余計な世辞は止して下せい、私《わし》は余計な世辞は大嫌いだから」
 富「いや世辞は申しません、これは譬《たと》えの通り人情で、好きなものは一遍顔を見た者には、知らぬ人でも勝たせたいと思うのが人間の情《じょう》でげしょう、況《ま》して旦那とは兄弟分でこうやって近々《ちか/″\》拝顔を得ますから、場
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