図にスックと立って透《すか》し見るに、真暗ではございますが、晃《きら》つく長いのを引抜いてこう透して居ります。
 惣「富や、おい富/\、何《な》んだかこそ/\して後《うしろ》にいるのは、富や/\」
 という声を当《あて》にして安田一角が振被《ふりかぶ》る折から、向《むこう》の方から来る者がありますが、大きな傘を引担《ひっかつ》いで、下駄も途中で借りたと見えて、降る中を此処《こゝ》に来合わせましたは、花車重吉という角力取《すもうとり》でござります。是からは芝居なればだんまり[#「だんまり」に傍点]場でございます。

        六十四

 引き続きお聞《きゝ》に入れまするは、羽生村の名主惣次郎を山倉富五郎が手引をして、安田一角と申す者に殺させます。是は富五郎が惣次郎の女房お隅に心底《ぞっこん》惚れておりましても、惣次郎があるので邪魔になりますから、寧《いっ》そかたづけて自分の手に入れようという悪心でござりますが、田舎にいて名主を勤めるくらいであるから惣次郎も剣術の免許ぐらい取って居ります。富五郎は放蕩無頼で屋敷を出る位で、少しも剣術を知りませんから、自分で殺す事は出来ません、茲《こゝ
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