ヘエお療治を致しますか」
 新「何だ汝《てまえ》ではなかった、違った」
 按摩「左様で、それはお生憎《あいにく》様でございますが何卒《どうぞ》お療治を」
 新「これ/\貴様鍼をいたすか」
 按摩「私《わたくし》は俄盲人《にわかめくら》でございまして鍼は出来ません」
 新「じゃア致方《いたしかた》が無い、按腹《あんぷく》は」
 按摩「療治も馴れません事で中々上手に揉みます事は出来ませんが、丈夫な方ならば少しは揉めます」
 新「何の事だ病人を揉む事はいかぬか、それは何にもならぬナ、でも呼んだものだから、勘藏、これ、何処《どこ》へ行って居るかナ、じゃア、まア折角呼んだものだからおれの肩を少し揉め」
 按摩「ヘエ誠に馴れませんから、何処が悪いと仰しゃって下さい、経絡《けいらく》が分りませんから、こゝを揉めと仰しゃれば揉みます」
 と後《うしろ》へ廻って探り療治を致しまするうち、奥方が側に居て、
 奥方「アヽ痛《いた》、アヽ痛」
 新「そう何《ど》うもヒイ/\云っては困りますね、お前我慢が出来ませんか、武士の家に生れた者にも似合わぬ、痛い/\と云って我慢が出来ませんか、ウン/\然《そ》う悶えては
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