「じゃア明晩|酉刻《むつ》というのか」
 富「手前供を致します、彼処《あすこ》は日中《にっちゅう》も人は通りませんから、酉刻を打って参り、ふッと提灯を消すのが合図」
 安「よろしい、相違なければ」
 と約束して帰りました。安田一角は馬鹿でもない奴なれども、お隅にぞっこん惚れているから、全く然《そ》ういう了簡で連れて来るのではないかと思い、是から胸に包んで翌日|仕度《したく》をして早くから家を出て、諸方を廻って、夜《よ》に入《い》って弘行寺の裏手林芒畳へ蹲《しゃが》んで待っている事とは知りません、此方《こちら》は富五郎が、お隅を手に入れるに惣次郎が邪魔になりますが、惣次郎は剣術も心得ておりますから、自分に殺す事が出来ぬから、一角を欺《だま》して惣次郎を殺させて後《のち》、お隅を連出して女房にしようという企《たくみ》でございます、実に悪い奴もあるものでございます。富五郎は書物《かきもの》が分りませんから眼を通してと、惣次郎へ帳面を見せ、態《わざ》と手間取るから遅くなります。是から夜食を食べて支度をして提灯を点《つ》けて出かけようとする、何か虫が知らせるかして母親もお隅も遣《や》りたくない、
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