呼入れて見ると、怪し気《げ》なる黒の羽織を着て、
按摩「宜《よろ》しゅう私《わたくし》が鍼をいたしましょう、鍼はお癪気《しゃくき》には宜しゅうございます」
というので鍼を致しますと、
奥方「誠に好《よ》い心持に治まりがついたから何卒《どうぞ》明日《あす》の晩も来て呉れ」
と戸外を通る揉療治ではありますが、一時凌《いっときしの》ぎに其の後《のち》五日ばかり続いて参ります。すると一番しまいの日に一本打ちました鍼が、何《ど》う云うことかひどく痛いことでございましたが、是は鍼に動ずると云うので、
奥方「あゝ痛《いた》、アいたタ」
按摩「大層お痛みでございますか」
奥方「はいあゝ甚《ひど》く痛い、今迄|斯《こ》んなに痛いと思った事は無かったが、誠に此の鳩尾《みずおち》の所に打たれたのが立割られたようで」
按摩「ナニそれはお動じでございます、鍼が験《きゝ》ましたのでございますから御心配はございません、イエまア又明晩も参りましょうか」
奥方「はい、もう二三日鍼は止《や》めましょう、鍼はひどく痛いから」
按摩「直《じ》き癒《なお》ります、鍼が折れ込んだ訳でもないので、少しお動じです
前へ
次へ
全520ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング