かと指をくわえて引込《ひっこ》む事は出来《でけ》ぬ、私は馬鹿だ智慧が足りねえから挨拶の仕様を知らぬ、何卒《どうか》こうせいと教えて下せえ、お前のいう通り行《や》りましょう、ねえ、どうなとお顔を立てようから斯《こ》うしろと教えて下せえ」
 安「これは面白い、予の顔を立てる、主意を立てるなれば勘弁致す、無礼を働いたお隅と云う女は不届至極だから、彼《あ》の婦人を惣次郎から貰い切って予に引渡して下さい、道場に連れて参って存じ寄り通りにする」
 花「それは出来《でけ》ない、彼《あれ》は御存知の水街道の麹屋の女中で、高い給金で抱えて置く女だ、今日一日羽生村の名主様が借《かり》て来たんだ、それを無礼した勘弁|出来《でけ》ないといって道場へ連れて行《ゆ》く、はいと云って遣られぬ、私《わし》にしても然《そ》うです、道場へ引かれゝば煮て喰うか焼いて喰うか頭から塩をつけて喰われるか知れねえものを、それは出来《でけ》ぬ、出来《でけ》ない相談、それじゃア仕様がねえわ」
 安「それじゃアなぜ主意を立てるといった、お前は力士、たゞの男とは違う、一旦云った事を反故《ほご》にする事はない、武士に二言はない、刀に掛けても
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