は困ります」
安「イヤ勘弁出来ぬ、武士に二言はないわ」
五十七
花車「そんな事云うて対手《あいて》が武士か剣術遣なれば兎も角も、高が女の事だからよ、大概にしろよ」
安田「大概にしろよとは何《なん》だ」
花「これは言損《いいそこ》なった、これは角力取はこういう口の利きようでうっかり云った、勘弁しろよう」
安「勘弁しろよとは何だ」
花「ほいまた言損なった」
安「勘弁しろよとは何だ、手前も大名|高家《こうけ》の前に出てお盃《さかずき》を頂く力士では無いか、挨拶の仕様を存ぜぬ事はない、大概にしろの勘弁しろよのという云い様があるか、猶更勘弁ならん、無礼至極不埓な奴だ」
と側にある飲冷《のみざま》しの大盃《おおさかずき》を把《と》ってぽんと放ると、花車の顔から肩へ掛けてぴっしり埃だらけの酒を浴《あび》せました。
花「先生《しぇんしぇい》お前さん酒を打掛《ぶっか》けたね、じゃアどうあっても勘弁|出来《でけ》ないと極めたか、それでは仕方がないが、先生|私《わし》も花車とか何《なん》とか肩書のある力士の端くれ、人に頼まれ、中に這入って勘弁ならん、はアそうでございます
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