惣「何《なん》だ」
 多「関取がねえ奥に来ているだ、大きに心配しているだが、ちょっくら旦那にお目に掛りてえというが」
 惣「なに花車が、それは宜《よ》かった関取に詫をして貰おう、一寸」
 安「これ/\逃出す事はならぬ」
 惣「いえ逃げは致しませんが、主意を立てましてお詫を申上げます暫く御免を」
 というのでこそ/\と後《あと》にさがる。此の隙《ひま》に宇治の里の亭主手代なども交《かわ》る/\詫びますけれども一向に聞入れがありません。
 惣「関取は此方《こちら》かえ」
 花車「はい」
 惣「誠にどうも此処《こゝ》で逢うとは思わなかった」
 花「えゝ今皆聞きました、何しろ相手が悪いがねえ、何か是には仔細があってだアと鑑定しているが、何しろ筋の悪い奴で、是は私《わし》がねエなり代って詫びて見ましょう」
 惣「何卒《どうぞ》、関取なら愛敬を売るお前だから厭《いや》でもあろうが、先の機嫌を直す様に」
 花「案じねえでもいゝよ」
 多「私《わし》イ宿を出る時に間違えでも出かすとなんねえから、名前《なめえ》に掛るからってお内儀《かみさん》に言付かって汝《われ》行って詰らねえ口い利いて間違え出か
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