っちゃりした少し丸形《まるがたち》のまことに気の利いた、苦労人の果《はて》と見え、万事届きます。殿様の御酒の相手をすれば、
新「熊が酌をすれば旨い」
などと酔った紛れに冗談を仰しゃると、此方《こちら》はなか/\それ者《しゃ》の果と見えてとう/\殿様にしなだれ寄りましてお手が付く。表向《おもてむき》届けは出来ませんがお妾と成って居る。するともと/\狡猾な女でございますから、奥方の纔訴《ざんそ》を致し、又若様の纔訴を致すので、何となく斯《こ》う家がもめます。いくら言っても殿様はお熊にまかれて、煩《わずら》って居る奥様を非道な事をしてぶち打擲《ちょうちゃく》を致します。もう十九にもなる若様をも煙管《きせる》を持って打《ぶ》つ様な事でございますから、
新五郎「あゝ親父《おやじ》は愚《ぐ》な者である、こんな処にいては迚《とて》も出世は出来ぬ」
と若気の至りで新五郎と云う惣領の若様はふいと家出を致しますると、お熊はもう此の上は奥様さえ死ねば自分が十分|此処《こゝ》の奥様になれると思い、
熊「わたしは何《ど》うも懐妊した様でございます、四月から見るものを見ませぬ酸《す》ッぱい物が食べたい」
前へ
次へ
全520ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング