藏《かんぞう》がとって二歳《ふたつ》になる新吉《しんきち》様と云う御次男を自分の懐へ入れて前町《まえまち》へ乳を貰いに往《ゆ》きます。と云うものは乳母を置く程の手当がない程に窮して居るお屋敷、手が足りないからと云うので、市ヶ谷に一刀流の剣術の先生がありまして、後《のち》に仙台侯の御抱《おかゝ》えになりました黒坂一齋《くろさかいっさい》と云う先生の処に、内弟子に参って居《お》る惣領《そうりょう》の新五郎《しんごろう》と云う者を家《うち》へ呼寄せて、病人の撫擦《なでさす》りをさせたり、或《あるい》は薬其の外《ほか》の手当もさせまする。其の頃新五郎は年は十九歳でございますが、よく母の枕辺《まくらべ》に附添って親切に看病を致しますなれども、小児《こども》はあり手が足りません。殿様はやっぱり相変らず寝酒を飲んで、奥方が呻《うな》ると、
新「そうヒイ/\呻ってはいけません」
などと酔った紛れにわからんことを仰しゃる。手少なで困ると云って、中働《なかばたらき》の女を置きました。是は深川《ふかゞわ》網打場《あみうちば》の者でお熊《くま》と云う、年二十九歳で、美女《よいおんな》ではないが、色の白いぽ
前へ
次へ
全520ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング