、旨く云ったってにこ/\顔付に見えるよ」
新「何がにこ/\、冗談じゃアねえ、帰《けえ》らねえ、おい」
累「はい、何卒《どうか》お前さん坊の始末を」
新「始末も何もねえ、行《ゆ》かねえか」
賤「其様《そんな》に云わずにお前お帰りよ、折角お迎いにお出《いで》なすったに誠にお気の毒様、大事な御亭主を引留めてね、さアお帰りよ、手を引かれてよ」
新「何を云うのだ、帰《けえ》らねえか」
と、さア癇癪に障ったから新吉は、突然《いきなり》利かない身体の女房お累の胸倉を取るが早いか、どんと突くと縁側から赤ん坊を抱いたなりコロ/\と転がり落ち、
累「あゝ情ない、新吉さん、今夜帰って下さらんと此の児《こ》の始末が出来ません」
と泥だらけの姿で這上るところを突飛ばすと仰向に倒れる、と構わずピタリと戸を閉《た》てゝ、下《おろ》し桟《ざん》をして仕舞ったから、表ではお累がワッと泣き倒れまする。此の時雨は愈々《いよ/\》烈《はげ》しくドウドッと降出します。
新「エヽ気色が悪《わり》い、酒を出しねえ」
賤「酒をったって私は困るよ、彼様《あん》な酷《ひど》いことをして、一寸帰ってお遣《や》りよ」
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