賤「はい、何方《どなた》」
「一寸《ちょっと》御免なすって、私《わたくし》でございます」
新「何《なん》だ庭の方から来たようだぜ」
賤「今明けますよ、何方でございますか名を云って下さらないでは困りますが」
「ヘイ新吉の家内、累でございます」
賤「え、お内儀《かみさん》が来たとさア、はい只今」
新「よしねえ、来る訳はねえ、病人で居るのだもの」
賤「お前逢って」
新「来る気遣《きづけえ》ねえよ」
賤「気遣《きづかえ》がないったって、お内儀が迎いに来たのだから嬉しそうな顔付をしてさ」
新「冗談じゃアねえ、嬉しい事も何もあるもんか、来る気遣《きづけえ》ねえよ」
賤「只今開けますよ、大事な御亭主を引留めて済みませんねえ」
と仇口《あだぐち》をきゝながら、がらりと明けますと、どん/\降る中をびしょ濡になって、利かない身体で赤ん坊を抱いて漸々《よう/\》と縁側から、
累「御免なさい」
と這入ったから、
新「何《なん》だって此の降る中を来たのだなア何《ど》うしたのだ」
累「貴方がお賤さんでございますか、駈違《かけちが》ってお目に掛りませんが、毎度新吉が上りまして、御厄介
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