近付にもなりませんで、兄貴が連れてお近付に参ると云って居りますが、何《なん》だか気が詰ると思ってツイ御無沙汰をして参りませんので」
賤「なに気が詰る所《どころ》じゃア無い、さっくり能《よ》く解《わか》った人だよ、私を娘の様に可愛がって呉れるから一寸《ちょいと》お寄りな、ねえ作さん」
作「それが好《い》い、新吉さんお出でよ、何《なん》でもお出で」
と勧められるから新吉は、幸い名主に逢おうと行《ゆ》きましたが、少し田甫《たんぼ》を離れて庭があって、囲《かこい》は生垣になって、一寸《ちょいと》した門の形が有る中に花壇などがある。
賤「さア新吉さん此方《こっち》へ」
惣「大層遅かったな」
賤「遅いったって見る処がないから累《かさね》の墓を見て来ましたが、気味が悪くて面白くないから帰って来たの」
作「只今」
惣「大きに作藏御苦労、誰か一緒か」
賤「彼《あ》の人は新吉さんと云って私が櫓下に居る時分、貸本屋の小僧さんで居て、その時分に本を脊負って来て馴染なので、思い掛けなく逢いましたら、まだ旦那様にお目に掛らないから、何卒《どうか》お目通りがしたいと云うから、それは丁度|好《よ》い
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