《こっち》へ来なせえ、アノ御新造様がお前《めえ》を知って居るてねえ」
 新「何方様《どなたさま》でげすえ」
 賤「ちょいと新吉さんですか、私は誠にお見違《みそ》れ申しましたよ、慥《たし》か深川櫓下の紅葉屋へ貸本を脊負ってお出でなすった新吉さんでは有りませんか」
 新「ヘエ、私もねえ先刻《さっき》からお見掛け申したような方と思ったが、若《もし》も間違ってはいけねえと思って言葉を掛けませんでしたが、慥かお賤さんで」
 作「それだから知って居るだ何処《どこ》で何様《どん》な人に逢うか知んねえ、嘘は吐《つ》けねえもんだ」
 賤「私は此の頃|此方《こっち》へ来て、斯《こ》ういう処にいるけれども、馴染はなし、洒落を云ったって向《むこう》に通じもしないし、些《ちっ》とも面白くないから、作藏さんが毎晩来て遊んでくれるので、些とは気晴しになるんだが、新吉さん本当に好《い》い処で、些とお出でなさいな、ちょうど旦那が遊びに来て居るから、変な淋しい処だけれども、閑静《しずか》で好いから一寸《ちょいと》お寄りな」
 新「ヘエ有難うございます、私はね此方《こっち》へ参りまして未《ま》だ名主様へ染々《しみ/″\》お
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