法蔵寺へ参詣に来ると、和尚が熟々《つく/″\》新吉を見まして、
和尚「お前は死霊の祟りのある人で、病気は癒《なお》らぬ」
新「ヘエ何《ど》うしたら癒りましょう」
和尚「無縁墓の掃除をして香花《こうはな》を手向《たむ》けるのは大功徳《だいくどく》なもので、これを行ったら宜かろう」
新「癒りますれば何様《どん》な事でも致しますが、無縁の墓が有りましょうか」
和尚「無縁の墓は幾らも有るから、能《よ》く掃除をして水を上げ、香花を手向けるのはよい功徳になると仏の教えにもある、昔から譬《たと》えにも、千本の石塔を磨くと忍術が行えるとも云うから、其様《そん》な事も有るまいが功徳になるから参詣なさい」
と和尚さんが有難く説きつけるから、新吉は是から願《がん》に掛けて、法蔵寺へ行っては無縁の墓を掃除して水を上げ香花を手向けまする。と其処《そこ》が気の故《せい》か、神経病だから段々数を掃除するに従って気分も快くなって参ります。三月の二十七日に新吉が例の通り墓参りをして出に掛ると、這入って来ました婦人は年の頃二十一二にもなりましょうか、達摩返しと云う結髪《むすびがみ》で、一寸《ちょっと》いたした
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