いだけに駈《かけ》るのも遅いから、新吉は逃げようとするが、何分《なにぶん》にも道路《みち》がぬかって歩けません。滑ってズーンと横に転がると、後《あと》から新五郎は跛で駈けて来て、新吉の前の処へポンと転がりましたはずみに新吉を取って押え付ける。
 新五郎「不埓至極《ふらちしごく》の奴殺してしまう」
 と云うに、新吉は一生懸命、無理に跳ね起きようとして足を抄《すく》うと、新五郎は仰向に倒れる、新吉は其の間《ま》に逃げようとする、新五郎は新吉の帯を取って引くと、仰向に倒れる、新吉も死物狂いで組付く、ベッタリ泥田の中へ転がり込む、なれども新五郎は柔術《やわら》も習った腕前、力に任して引倒し、
 新五郎「不埓至極な、女房の縁に引かれて真実の兄が言葉を背く奴」
 と押伏せて咽喉笛《のどぶえ》をズブリッと刺した。
 新「情ない兄《あに》さん…」
 駕籠屋「モシ/\旦那/\大そう魘《うな》されて居なさるが、雨はもう上りましたから桐油を上げましょう」
 新「エ、アヽ危うい処だ、アヽ、ハアヽ、此処《こゝ》は何処《どこ》だえ」
 駕「ちょうど小塚ッ原の土手でごぜえやす」
 新「えい、じゃア夢ではねえか、吾妻
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