ますから、先《まず》高い処へ手を上げてはいかぬ、井戸端へ出てはならぬとか、食物《しょくもつ》を大事に為《し》なければならんと、初子《ういご》だから母も心配致しまする。と江戸から早飛脚《はやびきゃく》で、下谷大門町の伯父勘藏が九死一生で是非新吉に逢いたいと云うのでございますが、只今の郵便の様には早く参りませんから、新吉も心配して、兄三藏と相談致しますと、たった一人の伯父さん、年が年だから死水《しにみず》を取るが宜《い》いと、三藏は気の付く人だから、多分の手当をくれましたから、暇《いとま》を告げ出立《しゅったつ》を致しまして、江戸へ着いたのは丁度八月の十六日の事でございます。長屋の人が皆寄り集って看病致します。身寄便もない、女房はなし、歳は六十六になります爺《おやじ》で、一人で寝て居りますが、長屋に久しく居る者で有りますから、近所の者の丹精で、漸々《よう/\》に生延びて居ります処、
男「オヤ新吉さんか、さア/\何卒《どうぞ》お上《あが》りなすって、おかね、盥《たらい》へ水を汲んで、足をお洗わし申して、荷や何かは此方《こっち》へ置いて、能《よ》くお出《いで》なすった、お待申しておりました、
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