という質屋があるとよ、其家《そこ》が死絶えて仕舞ったから、家は取毀《とりこわ》して仕舞ったのだ、すると己《おら》ア友達が羽生村に居て、此方《こっち》へ来たときに貰っただアが、汝《われ》使って見ねえか宜《よ》く切れるだが」
 と云いながら差出す。
 新「成程是は宜《い》い、切れそうだが大層古い鎌ですね」
 と云いながら取り上げて見ると、柄《え》の処に山形に三の字の焼印がありまするから驚いて、
 新「これは羽生村から出たのですと」
 音「そうさ羽生村の三藏と云う人が持って居た鎌だ」
 と云われた時、新吉は肝《きも》に応えて恟《びっく》り致し、草刈鎌を握り詰め、あゝ丁度今年で九ヶ年以前、累ヶ淵でおひさを此の鎌で殺し、続《つゞい》てお累は此の鎌で自殺し、廻り廻って今また我手へ此の鎌が来るとは、あゝ神仏《かみほとけ》が私《わし》の様な悪人をなに助けて置こうぞ、此の鎌で自殺しろと云わぬばかりの懲《こらし》めかあゝ恐ろしい事だと思い詰めて居りましたが、
 新「お賤一寸|来《き》ねえ、お賤一寸来ねえ」
 賤「あい、何《な》んだよ、今往くよ」
 と此の頃|疎々《うと/\》しくされて居た新吉に呼ばれた事でございますから、心嬉しくずか/\と出て来ました。
 新「お賤、此処《こゝ》においでなさるお小僧さんの顔を汝《てめえ》見覚えて居るか」
 と云われお賤はけゞんな顔をしながら、
 賤「そう云われて見ると此のお小僧さんは見た様だが何《な》んだか薩張《さっぱり》解らない」
 新「羽生村の惣右衞門|様《さん》のお子で、惣吉|様《さん》といって七歳《なゝつ》か八歳《やッつ》だったろう」
 賤「おやあの惣吉|様《さま》」
 新「此の鎌は三藏どんから出たのだが、汝《てめえ》のめ/\と知らずに居やアがる」
 と云いながら突然《いきなり》お賤の髻《たぶさ》を捉《と》って引倒す。
 賤「あれー、お前何をするんだ」
 というも構わず手元へ引寄せ、お賤の咽喉《のどぶえ》へ鎌を当てプツリと刺し貫きましたから堪《たま》りません、お賤は悲鳴を揚げて七顛八倒の苦しみ、宗觀と音助は恟《びっく》りし、
 音「お前《めえ》気でも違ったのか、怖《おっ》かねえ人だ、誰か来て呉れやー」
 と騒いで居る処へお熊比丘尼が帰って参り、此の体《てい》を見て同じく驚きまして、
 尼「お前は此間《こないだ》から様子が訝《おか》しいと思ってた、変な事ばかりいって、少したじれ[#「たじれ」に傍点]た様子だが、何《な》んだって科《とが》もないお賤を此の鎌で殺すと云う了簡になったのだねえ、確《しっ》かりしないじゃいけないよ」

        九十三

 新「いえ/\決して気は違いません、正気でございますが、お比丘さん、お賤も私《わっち》も斯《こ》う遣って居られない訳があるのでございます、お賤|汝《てめえ》は己を本当の亭主と思ってるが、汝は定めて口惜しいと思うだろうが、汝一人は殺さねえ、汝を殺して置き、己も死なねばならぬ訳があるんだ、汝は知るめえが、あゝ悪い事は出来ねえものだ、此の庵室へ来た時にはお前さんの懴悔話を聞くと若《わけ》え時に小日向服部坂上の深見という旗下へ奉公して、殿の手がついて出来たのがお賤だと仰しゃったが、私《わたし》も其の深見新左衞門の次男に生れ、小さい時に家は改易と成ったので町家《ちょうか》で育ったもの、腹は違えど胤《たね》は一つ、自分の妹とも知らないで七年跡から互に深く成った畜生同様の両人《ふたり》、此の宗觀|様《さん》のお父様《とっさん》は羽生村の名主役で惣右衞門というお方でしたが、お賤を深川から見受けして別に家《うち》を持たせ楽に暮させてお置きなすったものを私は悪い事をするのみならず、申すも恐ろしい事だが、惣右衞門|様《さん》をお賤と私とで縊《くび》り殺したのでございます、さ、斯《こ》う申したら嘸《さぞ》お驚きでございましょう、誰も知った者はありません、病死の積りで葬って仕舞ったが、人は知らずとも此の新吉とお賤の心には能《よう》く知って居りまする、畜生のような兄弟が斯《こ》うやって罪滅しの為夫婦の縁を切って、出家を遂げようと思いました処へ宗觀|様《さん》がおいでなすって、これ/\と話を聞いて見れば迚《とて》も生きては居《お》られません、此の鎌は女房のお累が自害をし、私《わっち》が人を殺《あや》めた草苅鎌だが、廻り廻って私《わっち》の手へ来たのは此の鎌で死ねという神仏《かみほとけ》の懲《こらし》めでございまするから、其のいましめを背かないで自害致しまする、私共《わたくしども》夫婦のものは、あなたの親の敵でございます、嘸《さぞ》悪《にく》い奴と思召《おぼしめし》ましょうから何卒《どうぞ》此の鎌でズタ/\に斬って下さいまし、お詫びの為《た》め一《ひ》と言《こと》申し上げますが、お前《まい》さ
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