五助街道の間道に、藤ヶ谷《ふじがや》という処の明神山《みょうじんやま》に当時隠れているんだ」
 作「へー、あの巨大《でっけ》え森のある明神さまの、彼処《あすこ》に隠れているのかえ、人の往来《おうれえ》もねえ位《くれえ》の処《とこ》だから定めて不自由だんべえ、彼処は生街道《なまかいどう》てえので、松戸へ通《つ》ン抜けるに余程|近《ちけ》えから、夏になると魚ア車に打積《ぶッつ》んで少しは人も通るが何《なん》だってあんな処に居るんだえ」
 安「それには少し訳があるのだ、己も横曾根にいられんで当地へ出たのだ」
 馬「何《なん》だか名主の惣次郎を先生が打斬《ぶっきっ》たてえ噂があるが、えゝ先生の事《こっ》たから随分やり兼《かね》ねえ、殺《や》ったんべえ此の横着もの奴《め》、そんな噂がたって居難《いづら》くなったもんだからおっ走《ぱし》って来たんだろう」
 安「そんな事はねえが武士《さむらい》の果は外に致方《いたしかた》もなく、旨い酒も飲めないから、どうせ永い浮世に短い命、斬り取《ど》り強盗は武士《ぶし》の習《ならい》だ、今じゃア十四五人も手下が出来て、生街道に隠れていて追剥《おいはぎ》をしているのだ」
 作「えゝ追剥を、えれえウーン怖《おっか》ねえウーン、おれ剥ぐなよ」
 安「汝《てまえ》なぞを剥いでも仕様がないが、汝は馬を引いてるんだから、偶《たま》には随分多分の金を持ってるよい旅人《りょじん》が、佐原《さはら》や潮来《いたこ》辺《あたり》から出て来るから、汝其の金のありそうな客を見たら、なりたけ駄賃を廉《やす》くして馬に乗せ、此処《こゝ》は近道でございますと旨く騙《だま》かして生街道へ引張り込み、藤ヶ谷の明神山の処まで連れて来てくれ、併《しか》し薄暗くならなくっちゃア仕事が出来ねえから、宜《い》い加減に何処《どこ》かで時を移すか、のさ/\歩けば自然と時が遅れるから、そうして連れて来て呉れゝば、多勢《おおぜい》で取巻いて金を出せといえば驚いてしまう、汝は馬を置《おき》っ放《ぱな》してなり引張ってなり逃げてしまいねえ、そうして百両金があったら其の内一割とか二割とか汝に礼をしようから、おれの仲間にならねえか」
 作「そんなら礼が二割といえば百両ありゃア二十両己にくれるのか」
 安「そうよ」
 作「うめえなア、只馬を引張って百五十文ばかりの駄賃を取って、酒が二合に鰊《にしん》の二本も喰えば、後《あと》に銭が残らねえ様な事をするより宜《い》いが、同類になって、若《も》し知れた時は首を打斬《ぶっきら》れるのかよ」
 安「そうよ」
 作「ウーン、それだけだな、己はもうこれで五十を越してるんだから百両で二十両になるのなら、こんな首は打斬られても惜くもねえから行《や》るべえか」
 安「汝《てまえ》馬を引いておれの隠家《かくれが》まで来い、あの明神山の五本杉の中に一本大きな楠《くすのき》がある、其の裏の小山がある処に、少しばかり同類を集めているんだ」
 馬「じゃア彼《あ》のもと三峰山《みつみねさん》のお堂のあった処だね、よくまア彼様《あん》な処にいるねえ、彼処《あすこ》は狼や蟒《うわばみ》が出た処《とこ》なんだから、尤《もっと》も泥坊になれば狼や蟒を怖がっていちゃア出来ねえが、そうかえ」
 一角は懐から金を取出し作藏に渡しながら、
 安「これは汝《てまえ》が同類になった証拠の為、少しだが小遣銭に遣るから取って置け」
 作「え、有難《ありがて》え、これは五両だね、今日は本当に思え掛けねえで五両二分になった」
 安「なぜ」
 作「不思議な事もあるものだ、今日はね、あのもさの三藏に逢ったよ、羽生村の質屋で金かした婆《ば》ア様が死んだって、其の白骨を高野へ納めるてえ来たが、今日は廿一日だから新高野山へお参《めえ》りをするてえので、與助を供に伴《つ》れて、己が先刻《さっき》東福寺まで送ってッたが、昔馴染だから二分くれるッて云ったが、有難うござえやす、実に今日は思え掛けねえ金儲けが出来た」
 安「其の五両を取って見ると、もう同類だから是切り藤ヶ谷へ来ずにいて、若《も》し汝《てまえ》の口から己の悪事を訴人しても汝は矢張《やっぱ》り同罪だ、仮令《たとえ》五両でも貰って見れば同類だから然《そ》う思え」
 作「己も覚悟を極めて行《や》るからには屹度《きっと》遣りやすよ、それは宜《い》いが、あんた直《すぐ》に独りで往《い》くか、馬に乗って往かないか、歩いて往く、そうか、左様なら……あゝ其方《そっち》へ往ってア損だから、其の土橋《どばし》を渡って真直《まっすぐ》においでなせえ、道い悪いから気い付けて往きなさえ、なア安田先生も剣術遣いだから、どうして剣術遣いじゃア飯《まんま》ア喰えねえ、あの人は旧時《もと》から随分|盗賊《どろぼう》ぐれえ遣《や》ったかも知んねえ、今己がに五両呉
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