りましたね…………おや/\またいっぱいになった、貴方そばから置き注ぎはいけません………余程《よほど》酔って居るからもう御免なさい……あれはお隅さん、貴方が恩人の内宝《ないほう》になっているから、食客《いそうろう》の身として、酔ったまぎれで、女房になれ……江戸へ連れて行こうといったのは実に済まない……済まないが、心にないことは云われん様な者で、富五郎深く貴方を胸に思っているから酔った紛れに口に出たので、どうも実に御無礼を致しました、どうか平《ひら》に御免を……」
 隅「あやまらなくっても宜《い》いじゃアないか、本当にお前が心に思ってくれるといえば嘘にも嬉しいよ、富さん、私もね、何時《いつ》までもこんな姿《なり》をしていたくない……江戸へ知れては外聞が悪いからねえ……江戸へ行くったって親類は絶えて音信《いんしん》がないし、真実《ほんとう》の兄弟もないから何《なん》だか心細くって、それには男でなければ力にならぬが、こういう汚《けが》れた身体になったから、今更いけない、いけないけれどもお前がねえ、私の様な者でも連れて行って女房にすると云っておくれなら、私も親類へ行って、この人も元はこれ/\のお侍でございましたが、運が悪くってこういう訳になったからといって頼むにも、二人ながら武士の家に生れた者だから、親類へも話が仕好《しい》い、よう富さん、本当にお前、私がこういう処へ這入ったからいけないかえ……前にいったことは嘘かえ」
 富「こりゃアなんとも恐れ入ったね……旨いことを仰しゃるなア……又一ぱいになった、そう注いじゃあいけない……えゝ…本当にそんな事をする気遣いは無いて…どうか御疑念の処は…私は困るよ……どうも理不尽に私を疑《うたぐ》って、脊骨をどやすというから、驚いて、言訳する間《ま》は無いから逃げたのだが、神かけて富五郎そんな事はないので……」
 隅「そんな心配は無いじゃアないか、何《なん》だねえ、お前、私がこんな身の上になっていても、敵とか何《なん》とか云って騒ぐと思ってるのかえ、私は表向き披露《ひろめ》をした訳でもなし、敵を討つという程な深い夫婦でもない、それ程何も義理はないと思うから、悪体を吐《つ》いて出たのだもの」
 富「そりゃア義理はありましょうが、私はあなたが、あんな愚痴|婆《ばゝあ》の機嫌を、よく取ってお在《い》でなさると思っていました。あなたがこれを出るのは本当でげす、御尤もでげすねえ」
 隅「だからさ、お前がいやなら仕方がないけれども、本当なら、お前の為にどんな苦労をしても、いやな客を取っても、張合があると思っているのさ、それには、判人《はんにん》がないといけないから、お前が判人になって、そうして私が稼いだのをお前に預けるから、私を江戸へ連れて行っておくれな」
 富「本当ですか」
 隅「あら本当かって、私が嘘をいうものかね、悪《にく》らしいよ」
 富「あゝ痛い、捻《つね》ってはいけない、そういう……又|充溢《いっぱい》になってしまった……いけないねえ……だが、お隅さん、本当に御疑念はお晴らしください、富五郎迷惑至極だてねえ」
 隅「どうも、うるさいよ、未《ま》だ何処《どこ》まで疑《うたぐ》るのだね、そんなに疑るなら証拠を出して見せようじゃないか、そら、是が羽生村から取って来た離縁状と、是はお客に貰った三十両あるのだよ、お前が真実女房に持ってくれる気なら、此のお金と離縁状を預けるがお前も確《たしか》な証拠を見せておくれよ、富さん」
 富「本当ですか、本当なら私だって、親類もあるから、お前さんと二人で行って、話しをすればすぐだね、そりゃア、小さくも御家人の株ぐらいは買ってくれるだろう、お隅さん本当なら、生涯嘘はつかないねえ」
 隅「まア嬉しいじゃアないか、富さん本当かい」
 富「そりゃア本当」
 隅「有難いねえ、じゃア証拠を見せておくれな」
 富「別に証拠はない」
 隅「だから悪《にく》らしいよ」
 富「悪らしいってあれば出すけどもないもの、じゃア外に仕方がないから斯《こ》うしよう、そう話がきまれば、此処《こゝ》に永く奉公さして置きたくないからね、どこまでも金の才覚をして早く江戸へ行こう、富五郎浪人はしていても、百や二百の金は直《すぐ》に出来るから」
 隅「そう、そんなに入らないが、路銀と土産ぐらい買って行きたいねえ」
 富「こう仕よう」
 隅「だって急にお前に苦労させては済まないから、此処で私が二年も稼いでから」
 富「なに宜《い》い、いゝから、斯《こ》うしよう、一角を騙《だま》して百両取ろう」
 隅「おや一角さんは何処《どこ》にいるの」
 富「うん、まあいゝや、お隅さん本当に御疑念の処は」
 隅「又そんなことを、本当にお前は悪らしいよ、じゃアお前は一角となれあって殺したことがあるから、私がどこまでも仇《かたき》を狙って
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