れ/\」
富「これは成程、至極御尤もですが、まア」
安「騒々しい行け/\」
富「じゃア有体《ありてい》に申します、正直なお話を致しますが、貴方の遺恨ある角力取の花車重吉が来て、法恩寺村の場所が始まるので、去年の礼というので、明晩になりますと、惣次郎が金《かね》三十両遣ると、ようがすか、用をしまうのは日の暮方まで掛りましょう、帳合《ちょうあい》などを致しますからな、用が終って飯を食ってはどうしても夜《よ》の六つ過《すぎ》になります、其処《そこ》で三拾両持って出掛ける、富五郎がお供でげす、ずうっと河原へ出て、それから弘行寺《ぐぎょうじ》の松の林の処へ出て黒門の処までは長い道でございますから其処へ出て来ましたら、貴方は顔を包んで芒畳《すゝきだゝみ》の影に隠れていて、手前が合図に提灯《ちょうちん》を消すと、途端に貴方が出てずぷりと遣り、惣次郎を殺すと金が三十両あるから持って宅《うち》へ帰り、構わず寝て入らっしゃい、まアさお聞きなさい、手前は面部へ疵《きず》を付けて帰って、今|狼藉者《ろうぜきもの》が十四五人出て、旦那も切合って私も切合ったが、多勢に無勢《ぶぜい》敵《かな》わぬ、早く百姓をというので大勢来て見ると、貴方は宅へ帰って寝て居る時分だから分らぬてえ、気の毒なといって死骸を引取り、野辺送りをしてしまってから、ようがすか、其の後《ご》は旦那様が入らっしゃりませんでは私がいても済みません、殊《こと》には彼《あ》アいう処へお供をして、旦那が彼アなれば猶更どうも思い出して泣く許《ばか》りでございますから、江戸表へという、惣次郎が死ねばお隅さんも旦那様がいなければ此の家《うち》にいても余計者だから私《わたくし》も江戸へ帰るという、江戸へ行《ゆ》くなれば一緒にというので、お隅を連れて来てずうっと貴方の処へ長熨斗を付けて差上げる工風《くふう》、富五郎の才覚、惚れた女を御新造にして金を三拾両只取れるという、是迄種を明《あか》してこれでも疑念に思召《おぼしめ》すか、えゝどうでげす」
安「成程是は面白い、それに相違ないか」
富「相違あるもないも身の上を明してかくお話をして、是をどうも疑念てえ事はない、宜しい手前も武士《さむらい》で金打《きんちょう》致します…今日はいけません…木刀を帯《さ》して来たから今日は金打は出来ませんが、外《ほか》に何《ど》の様なる証拠でも致します」
安「じゃア明晩|酉刻《むつ》というのか」
富「手前供を致します、彼処《あすこ》は日中《にっちゅう》も人は通りませんから、酉刻を打って参り、ふッと提灯を消すのが合図」
安「よろしい、相違なければ」
と約束して帰りました。安田一角は馬鹿でもない奴なれども、お隅にぞっこん惚れているから、全く然《そ》ういう了簡で連れて来るのではないかと思い、是から胸に包んで翌日|仕度《したく》をして早くから家を出て、諸方を廻って、夜《よ》に入《い》って弘行寺の裏手林芒畳へ蹲《しゃが》んで待っている事とは知りません、此方《こちら》は富五郎が、お隅を手に入れるに惣次郎が邪魔になりますが、惣次郎は剣術も心得ておりますから、自分に殺す事が出来ぬから、一角を欺《だま》して惣次郎を殺させて後《のち》、お隅を連出して女房にしようという企《たくみ》でございます、実に悪い奴もあるものでございます。富五郎は書物《かきもの》が分りませんから眼を通してと、惣次郎へ帳面を見せ、態《わざ》と手間取るから遅くなります。是から夜食を食べて支度をして提灯を点《つ》けて出かけようとする、何か虫が知らせるかして母親もお隅も遣《や》りたくない、
隅「何《なん》だか遅いから、明日《あした》先方《むこう》から参りますから今日はお止《や》めなさいな」
惣「なアに直ぐ帰るから」
隅[#「隅」は底本では「惣」]「そうでございますか、富五郎お前一緒にどうか気を付けておくれよ」
富「ヘエ大丈夫、どんな事があっても旦那様にお怪我をさせる様な事はございません、手前も剣道を心得ておりますから」
と空《そら》を遣《つか》って惣次郎の供をして出掛けましたが、笠阿弥陀を横に見て、林の処へ出て参りますと、左右は芒畳で見えませんが、左の方の土手向うは絹川の流れドウ/\とする、ぽつり/\と雨が顔にかゝって来る。
惣「富五郎降って来たようだ」
富「大した事もありません、恐れ入りましたが一寸|小用《こよう》を致しますから」
惣「小便《ちょうず》をするなれば提灯は持ていて遣る、これ/\何処《どこ》へ行《ゆ》く提灯を持って行っては困る」
という中《うち》富五郎はふっと提灯を吹消しました。
惣「提灯が消えては真暗《まっくら》でいかぬのう」
富「今小用致しますから」
という折から安田一角は大松《おおまつ》の蔭に忍んでおりましたが提灯が消えるを合
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