あんに》い、先刻《さっき》の様に高声《たかごえ》であんな事を云ってくれちゃア困るじゃアねえか、己はどうしようかと思った、表に人でも立って居たら」
 甚「何故、いゝじゃアねえか、己が面《つら》を出したら黙って金を出すかと思ったら、まご/\して居やアがって、手前《てめえ》お賤に惚れていやアがる、馬鹿、彼女《あいつ》めいゝ気に成りやアがって、呶鳴り付けるから仕方なしに云ったんだ、此畜生《こんちきしょう》金え持って来たか」
 新「彼《あ》れから後《あと》でお賤に話をして実は是々で明《あか》したと云ったら、それは済まない事を云った、知らなかったから誠に悪い事を云ったが、甚藏さんに悪く思わねえ様に然《そ》ういってくれというのだ」
 甚「手前《てめえ》湯灌場の事を云ったか」
 新「云ったよ、云ったら驚いてお賤は甚藏さんに済まなかった、然ういう訳なら何故早く私に然う云わないで、だが土手の甚藏さんに茲《こゝ》で三拾や四拾や上げても焼石に水で駄目だから、纏《まと》まった金を上げようから、何《ど》うかそれで堅気になり、此方《こっち》も江戸へ行って小世帯《こじょたい》を持つから、お互に此の事は云わねえという証拠の書付《かきつけ》でも貰って、たんとは上げられないが百両上げるから、百両で堅気に成ったら宜かろうと云うので、長く彼様《あん》な事をしていても甚藏さんも詰らねえじゃアないか、兄弟分の友誼《よしみ》で此の事はいわないと達引《たてひ》いて呉れるなら、生涯食える様に百両遣ろうというのだ、百両貰って堅気に成りねえ」
 甚「然うか、有難《ありがて》え、百両呉れゝば生涯お互《たげ》えに堅気に成りてえ、己も馬鹿は廃《や》めてえや」
 新「然う極《き》めてくんねえ」
 甚「じゃアまア金さえ持って来りゃア」
 新「今|茲《こゝ》にはねえ」
 甚「何をいうんだ馬鹿」
 新「マア人のいう事を聞きねえ、旦那が達者のうちお賤に己が死んだら食方《くいかた》に困るだろうから、死んでも食方の付く様にといって、実は根本《ねもと》の聖天山《しょうでんやま》の手水鉢《ちょうずばち》の根に金が埋めて有るから、それを以《もっ》てと言付けて有るのだ、えゝ二百両あると思いねえ、聖天山の左の手水鉢の側に二百両埋めて有るのだから、それを百両ずつ分けて江戸へ持って行って、お互に悪事は云わねえ云いますめえと約束して、堅気になって、親類になろうじゃアねえか」
 甚「然うか、新吉、旦那もお賤にゃア惚れて居たなア、二百両という金を埋めて置いて是で食えよとなア、若旦那にもいわねえで金を埋めて置くてえのは金持は違わア」
 新「早く堀らねえと彼処《あすこ》の山は自然薯《じねんじょう》を堀りに行《ゆ》く奴が有るから、無暗《むやみ》に遣《や》られるといけねえ」
 甚「じゃア早く」
 新「鋤《すき》か鍬《くわ》はねえか」
 甚「丁度鋤が有るから」
 と有合《ありあい》の鋤を担《かつ》いで是から二十丁もある根本の聖天山へ上《あが》って見ると、四辺《あたり》は森々《しん/\》と樹木が茂って居り、裏手は絹川の流《ながれ》はどう/\と、此の頃《ごろ》の雨気《あまけ》に水増して急に落《おと》す河水の音高く、月は皎々《こう/\》と隈《くま》なく冴《さ》えて流へ映る、誠に好《よ》い景色だが、高い処は寒うございますので、
 甚「新吉|此処《こゝ》は滅法寒いナア」
 新「なに穴を堀ると暖《あった》かくなって汗が出るよ、穴を堀りねえ」
 甚「余計な事をいうな」
 新「此処だ/\」
 と差図《さしず》を致しますから、
 甚「よし/\」
 といいながら新吉と土手の甚藏がポカ/\堀りまする、所が金は出ません、幾ら堀っても金は出ない訳で固《もと》より無い金、びっしょり汗をかいて、
 甚「新吉金は無《ね》えぜ」
 新「無《ね》いね」
 甚「何をいうんだ、無駄っ骨《ぽね》を折《おら》しやアがって金は有りゃアしねえ」

        五十二

 新「左と云ったが、ひょっとしたら向って左かしら」
 甚「何を云うんだ仕様がねえな此畜生|咽喉《のど》が渇いて仕様がねえ、斯《こ》んなにびっしょりに成った」
 新「己も咽喉が渇くから水を飲みてえと思っても、手水鉢は殻《から》で柄杓《ひしゃく》はから/\だが、誰もお参りに来ないと見えるな、うんそう/\、此方《こっち》へ来な、聖天山の裏手に清水の湧《わ》く処がある、社《やしろ》の裏手で崖の中段にちょろ/\煙管《きせる》の羅宇《らう》から出る様な清水が溜って、月が映っている、兄《あに》い彼処《あすこ》の水は旨《うめ》えな」
 甚「旨えが怖くって下《お》りられねえ」
 新「下りられねえって何《ど》うかして下りられるだろう、待ちねえあの杉だか松だか柏《かしわ》だかの根方に成って居る処《とこ》に藤蔓《ふじつる》に蔦《つた
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