りゃア宜《い》い気に成りやアがって、太《ふて》え事をしやアがって、色の仲宿や博奕の堂敷が何程の罪だ、世の中に悪《わり》い事と云うなア人殺しに間男と盗賊《ぬすっと》だ」
賤「何をいうのだ」
甚「なに、何《ど》うしたも斯《こ》うしたもねえ、新吉|此処《こゝ》へ出ろ、エヽおい、咽喉頸《のどっくび》の筋が一本拾両にしても二十両が物アあらア」
新「マア黙って兄《あんに》い」
甚「何《なん》でえ篦棒《べらぼう》め、己が柔和《おとな》しくして居るのだから文句なしに出すが当然《あたりめえ》だ、手前等《てめえら》が此の村に居ると村が穢《けが》れらア、手前等を此処《こけ》え置くもんか篦棒め、今に逆磔刑《さかばりつけ》にしようと簀巻《すまき》にして絹川へ投《ほう》り込《こも》うと己が口一つだから然《そ》う思ってろえ」
新「おい、其様《そん》な事を人に」
甚「人に知れたって構うもんかえ」
新「マア/\待ちねえ、知らねえのだお賤さんは、一件の事を知らねえのだよ、だから己が何《ど》うか才覚して持って行《い》こう、今夜|屹度《きっと》三拾両持って行《ゆ》くよ」
甚「間抜め、黙って引込《ひっこ》んで居る奴が有るもんか、そんなら直《すぐ》に出せ」
新「今は無いから晩方までに持って行《ゆ》くよ」
甚「じゃア屹度持って来い」
新「今に持って行《ゆ》くから、ギャア/\騒がねえで、実は、己がまだお賤に喋らねえからだよ、当人が知らねえのだからよ」
甚「コレ、博奕の仲宿とは何《なん》だ、太《ふて》え女《あま》っちょだ」
新「そんな大きな声を」
甚「屹度持って来い、来ねえと了簡が有るぞ」
新「何ごと置いても屹度金は持って行《ゆ》くよ、驚いたねえ」
賤「おい新吉さん、何《な》んだって彼奴《あいつ》にへえつくもうつく[#「へえつくもうつく」に傍点]するのだよ、お前がヘラ/\すると猶《なお》増長すらアね」
新「何《ど》うしてもいけないよ、貸さなけりゃア成らねえ」
賤「何《なん》で彼奴《あいつ》に貸すのだえ」
新「何《なん》だって、いけねえ事に成って仕舞った、旦那の湯灌の時|彼奴《あいつ》が来やアがって、一人じゃア出来ねえから手伝うといって、仏様を見ると、咽喉頸《のどっくび》に筋が有るのを見付けやがって、ア屹度《きっと》殺したろう、殺したといやア黙ってるが云わなけりゃア仏様を本堂へ持って行って詮議方《あらいかた》するというから、驚いて否応《いやおう》なしに種を明《あか》した」
賤「アレ/\あれだもの、新吉さん、それだもの、本当に仕方がないよ、彼《あれ》までにするにゃア、旦那の達者の時分から丹精したに、彼《あ》の悪党に種を明して仕舞って何《ど》うするのだよ、幾ら貸したって役に立つものかね、側から借りに来るよ彼奴《あいつ》がさ」
新「だけれども隠すにも何も仕様がない、本堂へ持って行かれりゃア直《すぐ》に悪事《ぼく》が露《わ》れるじゃアねえか、黙って埋めて遣るから云えというので」
賤「本当に仕様がないよ、何処《どこ》へでも持って行けと云えばいゝじゃアないか」
新「然《そ》ういうと直《すぐ》に彼奴《あいつ》が持って行《ゆ》くよ」
賤「持って行ったっていゝじゃアないか、何処《どこ》までも覚えは有りませんと私も云い張ろうじゃアないか」
新「云い張れないよ、彼奴《あいつ》ア中々の奴でそれに彼《あ》アいう時は口が利けないからねえ、脛疵《すねきず》だからお前のいう様な訳にゃアいかねえ、金で口止めするより外《ほか》に仕方はないよ」
賤「でも三拾両貸すと、ばんごと/\来ては大きな声で呶鳴ると、何《なん》で甚藏が呶鳴るかと他人《ひと》の耳にも這入り、目明《めあかし》が居るから、おかしく勘付かれて、あいつが縛られて叩かれると喋るから、何《ど》の道新吉さん仕方がない、土手の甚藏を何うかして殺してお仕舞いよう」
五十一
新「何《ど》うして/\中々|彼奴《あいつ》ア己より強い奴で、滅法力が有るから、彼奴は撲《ぶ》たれても痛くねえってえので、五人位掛らねえじゃアおっ付かねえ」
賤「何《ど》うか工夫が有るだろうじゃアないか」
新「工夫が中々いかないよ」
賤「ちょいと/\新吉さん耳をお貸し」
新「エ、うんうん成程是は旨《うめ》え」
賤「だからさア、それより外に仕方がないよ、悟られるといけない、悪党だから悟られない様に確《しっ》かり男らしくよ」
と何か囁《さゝ》やき、新吉が得心して、旦那の短い脇差をさして、新吉が日が暮れて少したって土手の甚藏の家《うち》へ来て、土間口から、
新「はい御免」
甚「サア上《あが》りゃア、マア下駄を穿いたなりで上りゃア、草履《ぞうり》か、構わねえ、畳がねえから掃除も何もしねえから其の儘上りゃ」
新「兄《
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