をした者で気の利いた者ですが、貴方は牢を破ったなどゝとんだ悪事をなさいました、知れたら大事で、早く改心なすって頭を剃《す》って衣に着替え、姿を変えて私と一緒に国へお連れ申しましょう、貴方|何様《どん》なにもお世話を致しましょうから、悪い心を止《や》めてください、えゝ」
 新五郎「下総の羽生村で三藏と云うは、何かえ、それは前に谷中七面前の下總屋へ番頭奉公した三藏ではないか」
 新「えゝ能《よ》く貴方は御存知で」
 新五郎「飛んだ処《とこ》へ手前|縁付《かたづ》いたな、其の三藏と言うは前々《まえ/\》朋輩《ほうばい》で、私《わし》が下總屋に居《い》るうち、お園という女を若気の至りで殺し、それを訴人したは三藏、それから斯様な身の上に成ったるも三藏故、白洲でも幾度《いくたび》も争った憎い奴で其の憎い念は今だに忘れん、始終憎い奴と眼を付けて居るが、そういう処へ其の方が縁付《かたづ》くとは如何《いか》にも残念、其の方もそういう処へは拙者が遣らぬ、決して行くな、是から一緒に逃去って、永《なげ》え浮世に短《みじ》けえ命、己と一緒に賊を働き、栄耀栄華《えようえいが》の仕放題《しほうだい》を致すがよい、心を広く持って盗賊になれ」
 新「これは驚きました/\、兄上考えて御覧なさい、世が世なれば旗下の家督相続もする貴方が、盗賊をしろなぞと弟に勧めるという事が有りましょうか、マア其様《そん》な事を言ったって、貴方が悪いから訴人されたので、三藏は中々其様な者ではございませぬ」
 新五郎「手前女房の縁に引かされて三藏の贔屓《ひいき》をするが、其の家を相続して己を仇《あだ》に思うか、サア然《そ》うなれば免《ゆる》さぬぞ」
 新「免さぬってえ、お前さんそれは無理で、それだから一遍牢へ這入ると人間が猶々《なお/\》悪くなるというのはこれだな、手前の居る処は田舎ではありますが不自由はさせませんから一緒に来て下さい」
 新五郎「手前は兄の言葉を背き居るな、よし/\有って甲斐なき弟故殺してしまう覚悟しろ」
 新「其様《そん》な理不尽な事を云って」
 新五郎「なに」
 と懐に隠し持ったる短刀《どす》を引抜きましたから、新吉は「アレー」と逃げましたが、雨降《あめふり》揚句《あげく》で、ビショ/\頭まではねの上りますのに、後《うしろ》から新五郎は跛《びっこ》を引きながら、ピョコ/\追駈《おっか》けまするが、足が悪いだけに駈《かけ》るのも遅いから、新吉は逃げようとするが、何分《なにぶん》にも道路《みち》がぬかって歩けません。滑ってズーンと横に転がると、後《あと》から新五郎は跛で駈けて来て、新吉の前の処へポンと転がりましたはずみに新吉を取って押え付ける。
 新五郎「不埓至極《ふらちしごく》の奴殺してしまう」
 と云うに、新吉は一生懸命、無理に跳ね起きようとして足を抄《すく》うと、新五郎は仰向に倒れる、新吉は其の間《ま》に逃げようとする、新五郎は新吉の帯を取って引くと、仰向に倒れる、新吉も死物狂いで組付く、ベッタリ泥田の中へ転がり込む、なれども新五郎は柔術《やわら》も習った腕前、力に任して引倒し、
 新五郎「不埓至極な、女房の縁に引かれて真実の兄が言葉を背く奴」
 と押伏せて咽喉笛《のどぶえ》をズブリッと刺した。
 新「情ない兄《あに》さん…」
 駕籠屋「モシ/\旦那/\大そう魘《うな》されて居なさるが、雨はもう上りましたから桐油を上げましょう」
 新「エ、アヽ危うい処だ、アヽ、ハアヽ、此処《こゝ》は何処《どこ》だえ」
 駕「ちょうど小塚ッ原の土手でごぜえやす」
 新「えい、じゃア夢ではねえか、吾妻橋を渡って四ツ木通りと頼んだじゃアねえか」
 駕「ヘエ、然《そ》う仰しゃったが、乗出してちょうど門跡前へ来たら、雨が降るから千住へ行って泊るからと仰しゃるので、それから此方《こっち》へ参《めえ》りました」
 新「なんだ、エヽ長《なげ》え夢を見るもんだ、迷子札は、お、有る/\、何《なん》だなア、え、おい若衆《わかいしゅ》/\、咽喉は何《なん》ともねえか」
 駕「ヘエ、何《ど》うか夢でも御覧でごぜえましたか、魘されておいでなせえました」
 新「小用《こよう》がたしてえが」
 駕「ヘエ」
 新「星が出たな」
 駕「ヘエ、好《い》い塩梅《あんべえ》星が出ました」
 新「じゃア下駄を出しねえ」
 駕「是で天気は定《さだ》まりますねえ」
 新「好い塩梅だねえ、おや此処《こゝ》はお仕置場だな」
 と見ると二ツ足の捨札に獄門の次第が書いて有りますが、始めに当時無宿新五郎と書いて有るを見て、恟《びっく》りして、新吉が、段々|怖々《こわ/″\》ながら細かに読下すと、今夢に見た通り、谷中七面前、下總屋の中働お園に懸想《けそう》して、無理無体に殺害《せつがい》して、百両を盗んで逃げ、後《のち》お捕方《とりかた
前へ 次へ
全130ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング