」
三「何《ど》う」
と手に把《と》って見ると、鎌の柄に丸の中に三の字の焼印《やきいん》が捺《お》してあるのを見て、
三「甚藏、是は己《おれ》の家《うち》の鎌だ、此の間|與吉《よきち》に持たして遣《や》った、是は與吉の鎌だ」
甚「だから與吉が持ってればお前《まえ》さんの処《とこ》の鎌でしょう」
三「左様」
甚「それだから」
三「何が」
甚「何がって、旦那此の鎌はね、奥に誰《たれ》も居やアしませんか」
三「誰《たれ》も居やアせん」
甚「此の鎌に就《つ》いて何《ど》うしてもお前さんが二十両|私《わっち》にくれて宜《い》い、私の親切をネ、鎌は詰らねえが私の親切を買って」
二十両何うしてもくれても宜い訳を話を致しますが、一寸一息吐きまして。
二十九
引続きまして申上げました羽生村で三藏と申すは、質屋をして居りまして、田地《でんじ》の七八十石も持って居ります可《か》なりの暮しで、斯様《かよう》に良い暮しを致しますのは、三右衞門と云う親父《おやじ》が屋敷奉公致して居るうち、深見新左衞門に二拾両の金を貰って、死骸の這入りました葛籠《つゞら》を捨てまして国へ帰り、是が資本《もとで》で只今は可なりに暮して居る。一体三藏と云う人は信実《しんじつ》な人で、江戸の谷中七面前の下總屋と云う質屋の番頭奉公致して、事柄の解《わか》った男でございますから、
三「コウお前《まえ》そう極《きま》りで其様《そん》な分らねえ事を云うが、己だから云うが、いゝか、何が親切で何《ど》う云う訳が有ったって草苅鎌を持って来て二十両金を貸せなどと云って、村の者もお前《めえ》を置いては為にならねえと云う、此の間|何《なん》と云った、私は此の村を離れましては何処《どこ》でも鼻撮《はなッつま》みで居処《いどころ》もございませんから、元の如く此の村に居られる様にして呉れと云うから、名主へ行って話をして、彼《あ》れは外面《うわべ》は瓦落《がら》/\して、鼻先ばかり悪徒《あくとう》じみて居りますが、腹の中はそれほど巧《たくみ》のある奴では無いと、斯《こ》う己が執成《とりな》して置いたから居《い》られる、云はゞ恩人だ、それを背くかお前《めえ》、何《なん》で鎌を、何《ど》う云う訳で親切などと下らぬ事を云うんだえ」
甚「それなら打明けてお話申しますが此の間松村で一寸《ちょっと》小博奕《こばくち》へ手を出して居るとだしぬけに御用と云うのでバラ/\逃げて入江の用水の中へ這入って、水の中を潜《くゞ》り込んで土手下のボサッカの中へ隠れて居ると、其処《そこ》で人殺しがあり、キアッと云う女の声で、私《わっち》も薄気味《うすきび》が悪いから首を上げて見たが暗くって訳が分らず、土砂降だが、稲光がピカ/\する度《たび》時々|斯《こ》う様子が見えると、女を殺して金を盗んだ奴がある、宜《よ》うがすか、判然《はっきり》分りませんが、其の跡へ私が来て見ると、此の鎌が落ちて居る、此の鎌で殺したか、柄《え》にベッタリ黒いものが付いて有るのは血《のり》じみサ、取上げて見ると丸に三の字の焼印が捺して有る、宜うがすか、旦那の家《うち》の鎌、ひょっとして他《ほか》の奴が、此の鎌が女を殺した処《とこ》に落ちて有るからにゃア此の鎌で殺したと、もしやお前《まえ》さんが何様《どん》な係り合になるめえ物でもねえと思い、幸い旦那の御恩返《ごおんげえ》しと思って、私が拾って家《うち》へ帰《けえ》って今迄隠して居た、宜うがすか、お前《めえ》さんの処《ところ》で死骸《しげえ》を引取って己の家《うち》の姪《めえ》と云うので法事も有ったのだから、お前《めえ》さんの処で女を殺して物を取った訳はねえが、悪《わり》い奴が拾いでもすると、お前《めえ》さんは善《い》い人と思っては居るが、そう村中みんなお前《めえ》さんを誉《ほめ》る者ばかりじゃアねえ、其の中《うち》には五人や八人は彼様《あんな》になれる訳はねえと、工面が良《い》いと憎まれる事も有りましょう、それから中には悪く云う奴もある私と斯《こ》う中好《なかよ》く、お前《まえ》さんは江戸に奉公して江戸子《えどっこ》同様と云うので、甚藏や悪《わり》い事はするナ、と番毎《ばんごと》に斯《こ》う云ってお呉《く》んなさるは有難《ありがて》えと思って居るが、私がお前《めえ》さんに平生《ふだん》お世話に成って居りますから、娘を殺して金を取るような人でねえ事は知って居りますが、宜うがすか、お前《めえ》さんと若《も》し私が中が悪くって、忌々《いめえま》しい奴だ、何《ど》うかしてと思って居《い》れば、私が鎌を持って、斯《こ》うだ此の鎌が落ちて有った是は三藏の処《とこ》の鎌だと振廻して役所へでも持出せば、お前《めえ》さんの腰へ否《いや》でも縄が付く、然《そ》うでないまでも、十日でも二十
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