日でも身動きが出来ねえ、然うすりゃア年をとったお母様《ふくろさま》はじめ妹御《いもうとご》も心配だ、其の心配を掛けさせ度《た》くねえからねえ、然う云う馬鹿があるめえものでもねえのサ、私などは随分|遣《や》り兼《かね》ねえ性質《たち》だ、忌々《いめえま》しいと思えば遣る性質だけれども、御恩になって居るから、旦那が殺したと思う気遣《きづけえ》もねえけれども、理屈を付ければまア何《ど》うでもなるのサ、彼様《あんな》に身代《くめん》のよくなるのも、些《ちっ》とは悪い事をして居るだろうぐらいの話をして居る奴もあるから、殺した跡で世間体が悪《わり》いから、死骸でも引取って、姪《めえ》とか何《なん》とか名を付けて、とい弔いをしなければ成るめえと、さ、訝《おか》しく勘繰《かんぐ》るといかねえから、他人に拾われねえ様に持って来たのだから、十日でも二十日でも留められて、引出されゝば入費《にゅうひ》が掛ると思って、只私の親切を二十両に買っておくんなさりゃア、是で博奕は止《やめ》るから、ねえモシ旦那え」
三「コレ/\甚藏、然《そ》う汝《きさま》が云うと己が殺して死骸を引取って、葬りでもした様に疑《うたぐ》って、訝《おか》しくそんな事を云うのか」
甚「お前《めえ》さん私《わっち》が然う思うくれえなら、鎌は振廻して仕舞わア、大きな声じゃア云えねえが、是は旦那世間の人に知れねえように、私が黙って持って居るその親切を買って二十両、ね、もし、鎌は詰らねえが宜うがすか、お前《めえ》さんと中が悪ければ、酷《ひど》い畜生《ちきしょう》だなんて遣《や》り兼ねえ性質《たち》だが、旦那にゃア時々|小遣《こづけえ》を貰ってる私だから、何《なん》とも思やアしねえがネ、厭《いや》に世間の人が思うから鎌を拾って持って来た、其の親切を買って、えゝ旦那、お前《めえ》さん否《いや》と云えば無理にゃア頼まねえが、私は草苅鎌を二十両に売ろうと云う訳ではねえのサ、親切ずくだからネ、達《たっ》てとは云わねえ、そうじゃアねえか、此の村に居てお前《めえ》の呼吸《いき》が掛らなけりゃア村にも居られねえ、其の時はいやに悪《わり》い仕事をして逃げる、そうなりゃア何《ど》うでも宜《い》いやア、ねえ、否《いや》でげすか、え、もし」
と厭に絡《から》んで云いがゝりますも、蝮《まむし》と綽名《あだな》をされる甚藏でございますから、うっかりすれば喰付かれますゆえ、仕方なく、
三「詰らぬ口を利かぬが宜《い》いぜ、金は遣《や》るから辛抱をしねえよ」
とただ取られると知りながら、二十両の金を遣りまして甚藏を帰しますと、其の夜《よ》三藏の妹お累《るい》が寝て居ります座敷へ、二尺余りもある蛇が出ました。九月|中旬《なかば》になりましては田舎でも余り蛇は出ぬものでございますが、二度程出ましたので、墓場で驚きましたから何が出ても蛇と思い只今申す神経病、
累「アレー」
と駈出して逃《にげ》る途端|母親《おふくろ》が止め様とした機《はずみ》、田舎では大きな囲炉裏が切ってあります、上からは自在が掛って薬鑵《やかん》の湯が沸《たぎ》って居た処へ双《もろ》に反《かえ》りまして、片面《これ》から肩《これ》へ熱湯を浴びました。
三十
お累が熱湯を浴びましたので、家中《うちじゅう》大騒ぎで、医者を呼びまして種々《いろ/\》と手当を致しましたが何《ど》うしてもいかんもので、火傷《やけど》の痕《あと》が出来ました。追々全快も致しましょうが、二十一二になる色盛《いろざかり》の娘、顔にポツリと腫物《できもの》が出来ましても、何うしたら宜《よ》かろうなどと大騒ぎを致すものでございますのに、お累は半面紫色に黒み掛りました上、片鬢《かたびん》兀《はげ》るようになりましたから、当人は素《もと》より母親《おふくろ》も心配して居ります。
累「あゝ情《なさけ》ない、この顔では此の間法蔵寺で逢った新吉さんにもう再び逢う事も出来ぬ」
と思いますと是が気病《きやみ》になり、食も進まず、奥へ引籠《ひきこも》ったきり出ません、母親《おふくろ》は心配するが、兄三藏は中々分った人でございますから、
三「お母様《っかさん》、えーお累は何様《どん》な塩梅でございますねえ」
母「はアただ胸が支《つか》えて飯が喰えねえって幾ら勧めても喰えねえ/\と云う、疲れるといかねえから些《ちっ》と食ったら宜《よ》かんべえと勧めるが、涙ア翻《こぼ》して己《おら》ア此様《こん》な顔に成ったから駄目だ、何《ど》うせ此様な顔になった位《くれ》えなら、おッ死《ち》んだ方が宜《え》え。と其様《そん》な事べえ云ってハア手におえねえのサ、もっと大《でけ》え負傷《けが》アして片輪になる者さえあるだに、左様《そう》心配《しんぺえ》しねえが宜《え》えと云うが、彼《あれ》は幼《
前へ
次へ
全130ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング