仕様がねえ、全体師匠の云う事はよく筋がわかっているよ、伯父さん誠に面目ないが、打明けてお話を致しまするが、新吉さんと去年から訝《おか》しなわけになって、何《なん》だか私も何《ど》う云う縁だか新吉さんが可愛いから、それで詰らん事に気を揉みまして、斯《こ》んな煩《わずら》いになりました、就《つい》ては段々弟子も無くなり、座敷も無くなって、実《ほんと》にこんな貧乏になりましたも皆《みんな》私の心柄で、新吉さんも嘸《さぞ》こんな姿で悋気《りんき》らしい事を云われたら厭《いや》でございましょう、それで新吉さんが駈出してしまったのでございますから、私はもうプッヽリ新吉さんの事は思い切りまして、元の通り、尼になった心持で堅気の師匠を遣《や》りさえすれば、お弟子も捩《より》を戻して来てくれましょうから、新吉さんには何《ど》んな処へでも世帯《しょたい》を持たせて、自分の好《す》いた女房を持たせ、それには沢山のことも出来ませんが、病気が癒《なお》れば世帯を持つだけは手伝いをする積り、又新吉さんが煙草屋をして居ては足りなかろうから、月々二両や三両位はすけるから、何卒《どうぞ》伯父さん立会《たちあい》の上、話合《はなしあい》で、表向《おもてむき》プッヽリと縁を切る様にしたいから何卒《どうか》願います、と云うのだが、気の毒でならねえ、あの利かねえ身体で、*四つ手校注に乗って広袖《どてら》を着て、きっとお前が此家《こゝ》に居ると思って、奥に先刻《さっき》から師匠は来て待って居るから、行って逢いな、気の毒だあナ」
*「四つ手かごの略。戸はまれに引戸ものあれど多くは垂れなり。」
 新「冗談云っちゃアいけない、伯父さんからかっちゃアいけません」
 勘「からかいも何もしねえ、師匠、今新吉が来ましたよ」
 豐「おやマア大層遅く何処《どこ》へ行っておいでだった」
 勘「新吉、此方《こっち》へ来なよ」
 新「ヘエ、逢っちゃアいけねえ」
 と怖々《こわ/″\》奥の障子を明けると、寝衣《ねまき》の上へ広袖を羽織ったなり、片手を突いて坐って居て、
 豐「新吉さんお出《いで》なすったの」
 新「エヽド何《ど》うして来た」
 豐「何うして来たってね、私が眼を覚《さま》して見るとお前がいないから、是は新吉さんは愛想が尽きて、私が種々《いろ/\》な事を云って困らせるから、お前が逃げたのだと思って気が付くと、ホッと夢の覚め
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