斯《こ》うふい[#「ふい」に傍点]と何処《どこ》かへ行って仕舞《しまお》うかと思って、それには下総に些《すこし》の知己《しるべ》が有りますから其処《そこ》へ行《ゆ》こうかと思うので」
 久「おやお前さんの田舎はあの下総なの」
 新「下総と云う訳じゃアないが些《ちっ》と知って居る……伯母さんがあるので」
 久「おやまあ。私の田舎も下総ですよ」
 新「ヘエお前さんの田舎は下総ですか、世には似た事があるものですね、然《そ》う云えば成程お前さんの処の屋号《いえな》は羽生屋と云うが、それじゃア羽生村ですか」
 久「私の伯父さんは三藏《さんぞう》と云うので、親父は三九郎と云いますが、伯父さんが下総に行って居るの、私は意気地《いくじ》なしだから迚《とて》も継母の気に入る事は出来ないけれども、余《あんま》りぶち打擲《ちょうちゃく》されると腹が立つから、私が伯父さんの処《とこ》へ手紙を出したら、そんな処に居らんでも下総へ来てしまえと云うから、私は事によったら下総へ参りたいと思います」
 新「ヘエ然《そ》うでございますか、本当に二人が情夫《いろ》か何かなれば、ずうっと行くが、何《なん》でもなくっては然《そ》うはいきませんが、下総と云えば、何《な》んですね、累《かさね》の出た処を羽生村と云うが、家《うち》の師匠などはまるで累も同様で、私をこづいたり腕を持って引張《ひっぱ》ったりして余程変ですよ、それに二人の中は色でも何《なん》でもないのに、色の様に云うのだから困ります、何《ど》うせ云われるくらいなれば色になって、然《そ》うしてずうっと、二人で下総へ逃《にげ》ると云うような粋《いき》な世界なら、何《なん》と云われても云われ甲斐がありますが」
 久「うまく仰しゃる、新吉さんは実《じつ》があるから、お師匠さんを可愛いと思うからこそ辛い看病も出来るが、私のような意気地なしの者をつれて下総へ行《ゆ》きたいなんと、冗談にも然《そ》う仰しゃってはお師匠さんに済みませんよ」
 新「済まないのは知ってるが、迚《とて》も家《うち》には居られませんもの」
 久「居られなくっても貴方が下総へ行ってしまうとお師匠さんの看病人がありません、家《うち》のお母《っか》さんでも近所でも然《そ》う云って居りますよ、あの新吉さんが逃出して、看病人が無ければ、お師匠さんは野倒死《のたれじに》になると云って居ります、それを知って
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