ごもくずし》へ引張《ひっぱ》り込むと、鮨屋でもさし[#「さし」に傍点]で来たから訝《おか》しいと思って、
 鮨「いらっしゃい、お二階へ/\、あの四畳半がいゝよ」
 と云うのでとん/\/\/\と上《あが》って見ると、天井が低くって立っては歩かれません。
 新「何《なん》だか極りが悪うございますね」
 久「私は何《ど》うも思いません、お前さんと差向いでお茶を一つ頂く事も出来ぬと思って居ましたが、今夜は嬉しゅうございますよ」
 新「調子のいゝことを」
 女「誠に今日《こんにち》はお生憎《あいにく》様、握鮓《にぎり》ばかりで何《なん》にも出来ません、お吸物も、なんでございます、詰らない種でございますから、海苔《のり》でも焼いて上げましょうか」
 新「あゝ海苔で、吸物は何か一寸|見計《みはから》って、あとは握鮓がいゝ、おい/\、お酒は、お前いけないねえ、しかし極りが悪いから、沢山は飲みませんが、五勺《ごしゃく》ばかり味醂《みりん》でも何でも」
 女「畏《かしこ》まりました、御用がありましたらお呼びなすって、此処《こゝ》は誠に暗うございますが」
 新「何ようございます、其処《そこ》をぴったり〆《し》めて」
 女「ハイ御用があったらお手を、此の開きは内から鎖鑰《かきがね》が掛りますから」
 新「お前さんとさし[#「さし」に傍点]で来たから、女がおかしいと思って内から鎖鑰が掛るなんて、一寸*たかいね、お久さん何処へ」
*「たかい目が高いの略」
 久「日野屋へ来たの」
 新「あ然《そ》う/\、此の間はお気の毒様で、お母《っか》さんのお耳へ這入ったら嘸《さぞ》怒りなさりやアしないかと思って大変心配しましたが、師匠は彼《あ》の通り仕様がないので」
 久「何《ど》うも私共の母なども然《そ》う云っておりますよ、お師匠さんがあんな御病気になるのも、やっぱり新吉さん故だから、新吉さんも仕方がない、何様《どんな》にも看病しなければならないが、若いから嘸お厭《いや》だろうけれども、まアお年に比《あわ》しては能《よ》く看病なさるってお母《っか》さんも誉めて居ますよ」
 新「此方《こっち》も一生懸命ですがね、只煩って看病するばかりならいゝけれども、何うも夜中に胸倉を取って、醜《いや》な顔で変な事を云うには困ります、私は寝惚《ねぼけ》て度々《たび/\》恟《びっく》りしますから、誠に済まないがね、思い切って
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