られてもせっせと来ます。それは来る訳で、家《うち》に居ると継母に捻られるから、お母《っか》さんよりはお師匠さんの方が数が少いと思って近く来ると、猶《なお》師匠は修羅を燃《もや》して、わく/\悋気《りんき》の焔《ほむら》は絶える間は無く、益々逆上して、眼の下へポツリと訝《おか》しな腫物《できもの》が出来て、其の腫物が段々|腫上《はれあが》って来ると、紫色に少し赤味がかって、爛《たゞ》れて膿《うみ》がジク/″\出ます、眼は一方|腫塞《はれふさ》がって、其の顔の醜《いや》な事と云うものは何《なん》とも云いようが無い。一体少し師匠は額の処が抜上《ぬけあが》って居る性《たち》で、毛が薄い上に鬢《びん》が腫上っているのだから、実に芝居で致す累《かさね》とかお岩とか云うような顔付でございます。医者が来て脈を取って見る。豊志賀が、是は気の凝《こり》でございましょうか、と云うと、イヤ然《そ》うでない是は面疔《めんちょう》に相違ないなどゝ云うが、それは全く見立違《みたてちが》いで、只今の様に上手なお医者はございません時分で、只今なら佐藤先生の処へ行《ゆ》けば、切断して毒を取って跡は他人の肉で継合《つぎあ》わせると云う、飴細工の様な事も出来るから造作はないが、其の頃は医術が開けませんから、十分に療治も届きません。それ故段々|痛《いたみ》が烈《はげ》しくなり、随《したが》って気分も悪くなり、終《つい》にはどっと寝ました。ところが食《しょく》は固《もと》より咽喉《のど》へ通りませんし、湯水も通らぬ様になりましたから、師匠は益々|痩《やせ》るばかり、けれども顔の腫物《できもの》は段々に腫上って来まするが、新吉はもと師匠の世話になった事を思って、能《よ》く親切に看病致します。
 新「師匠/\、あのね、薬の二番が出来たから飲んで、それから少し腫物の先へ布薬《ひきぐすり》を為《し》よう、えゝおい、寝て居るのかえ」
 豐「あい」
 と膝に手を突いて起上りますると、鼠小紋《ねずみこもん》の常着《ふだんぎ》を寝着《ねまき》におろして居るのが、汚れッ気《け》が来ており、お納戸色《なんどいろ》の下〆《したじめ》を乳の下に堅く〆《し》め、溢《くび》れたように痩せて居ります。骨と皮ばかりの手を膝に突いて漸《ようや》くの事で薬を服《の》み、
 豐「ほッ、ほッ」
 と息を吐《つ》く処を、新吉は横眼でじろりと見ると、も
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