おくれな、私も淋しくっていけないから、私のネこの上掛《うわがけ》の四布蒲団《よのぶとん》を下に敷いて、私の掻巻《かいまき》の中へお前一緒に這入って、其の上へ五布蒲団を掛けると温《あった》かいから、一緒にお寝な」
 新「それはいけません、どうして勿体ない、お師匠さんの中へ這入って、お師匠さんの身体から御光《ごこう》が射すと大変ですからな」
 豐「御光だって、寒いからサ」
 新「寒うございますがね、明日《あした》の朝お弟子が早く来ましょう、然《そ》うするとお師匠さんの中へ這入って寝てえれば、新吉はお師匠さんと色だなどと云いますからねえ」
 豐「宜《い》いわね、私の堅い気象は皆《みんな》が知って居るし、私とお前と年を比べると、私は阿母《おっか》さんみた様で、お前の様な若い子みたいな者と何《ど》う斯《こ》う云う訳は有りませんから一緒にお寝よ」
 新「そうでげすか、でも極りが悪いから、中に仕切を入れて寝ましょうか」
 豐「仕切を入れたって痛くっていけませんよ、お前|間《ま》がわるければ脊中合《せなかあわせ》にして寝ましょう」
 と到頭|同衾《ひとつね》をしましたが、決して男女《なんにょ》同衾はするものでございません。

        十六

 日頃堅いと云う評判の豐志賀が、どう云う悪縁か新吉と同衾をしてから、不図《ふと》深い中になりましたが、三十九歳になる者が、二十一歳になる若い男と訳があって見ると、息子のような、亭主のような、情夫《いろおとこ》の様な、弟の様な情が合併して、さあ新吉が段々かわいゝから、無茶苦茶新吉へ自分の着物を直して着せたり何か致します、もと食客《いそうろう》だから新吉が先へ起きて飯拵《めしごしら》えをしましたが、此の頃は豐志賀が先へ起きてお飯《まんま》を炊くようになり、枕元で一服つけて
 豐[#「豐」は底本では「新」]「さア一服お上《あが》りよ」
 新「ヘエ有難う」
 豐「何《なん》だよヘエなんて、もうお起きよ」
 新「あいよ」
 などと追々増長して、師匠の布子《どてら》を着て大胡坐《おおあぐら》をかいて、師匠が楊枝箱《ようじばこ》をあてがうと坐ってゝ楊枝を遣《つか》い嗽《うがい》をするなどと、どんな紙屑買が見ても情夫《いゝひと》としか見えません。誠に中よく致し、新吉も別に行《ゆ》く処も無い事でございますから、少し年をとった女房を持った心持でいましたが、
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