稽古が好きで、閑《ひま》の時は、水を汲みましょうお湯を沸《わか》しましょうなどと、ヘエ/\云ってまめに働きます。年二十一でございますが、一寸|子※[#「てへん+丙」、第4水準2−13−2]《こがら》の好《よ》い愛敬のあると云うので、大層師匠の気に入り、其の中《うち》に手少なだから私の家《うち》に居て手伝ってと云うと、新吉も伯父の処に居るよりは、芸人の家《うち》に居るのは粋《いき》で面白いから楽《たのし》みも楽みだし、芸を覚えるにも都合がいゝから、豊志賀の処へ来て手伝いをして居ります。其の年十一月二十日の晩には、霙《みぞれ》がバラ/\降って参りまして、極《ごく》寒いから、新吉は食客《いそうろう》の悲しさで二階へ上《あが》って寝ますが、五布蒲団《いつのぶとん》の柏餅《かしわもち》でもまだ寒いと、肩の処へ股引などを引摺込《ひきずりこ》んで寝まするが、霙はざあ/\と窓へ当ります。其の内に少し寒さが緩《ゆる》みましたかして、夜《よ》が更けてから雨になりまして、どっとと降って参ります。師匠は堅いから下に一人で寝て居りますが、何《なん》だか此の晩は鼠がガタ/\して豐志賀は寝られません。
 豐「新吉さん/\」
 新「ヘエ何《なん》でげすね」
 豐「お前まだ眼が覚めていますかえ」
 新「ヘエ、私はまだ覚めて居ります」
 豐「そうかえ私も今夜は何だか雨の音が気になって少しも寝られないよ」
 新「私も気になって些《ちっ》とも寝られません」
 豐「何だか誠に訝《おか》しく淋しい晩だね」
 新「ヘエー訝しく淋しい晩でげすね」
 豐「寒いじゃアないか」
 新「何だかひどく寒うございますね」
 豐「なんだね同じ様なことばかり云って、誠に淋しくっていけない、お前さん下へ下りて寝ておくれな、どうも気になっていけないから」
 新「そうですか、私も淋しいから下へ下りましょう」
 と五布蒲団と枕を抱えて、危い階子《はしご》を下りて来ました。
 豐「お前、新吉さん其方《そっち》へ行って柏餅では寒かないかえ」
 新「ヘエ、柏餅が一番|宜《い》いんです、布団の両端《りょうはじ》を取って巻付けて両足を束《そく》に立って向《むこう》の方に枕を据《す》えて、これなりにドンと寝ると、好《い》い塩梅に枕の処へ参りますが、そのかわり寝像《ねぞう》が悪いと餡《あん》がはみ出します」
 豐「お前寒くっていけまい、斯《こ》うして
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