よしなさい、だが私もね、お前と二人で悪い事を仕度《した》くもないが、喰い方に困るものだから一緒にしたが、昨日《きのう》私が斯《こ》んな怪我をして、恐ろしい顔になったもんだから、他《ほか》の女と乗り替える了簡で、旨くごまかして、私を此寺《こゝ》へ押附《おっつ》け、お前はそんな事をいって逃げる心だろう」
 新「決してそういう訳じゃアないが、お前《まえ》どうして女に生れたんだなア」
 賤「何を無理な事をいうの、女に生れたって、気違じみ切って居るよ」
 新「お前に口を利かれても総毛立つよ」
 尼「喧嘩をしてはいけません、私もお賤の為には親だから死水《しにみず》を取って貰い度《た》いが親子でありながらそうも云われず、又お賤も私の死水を取る気はありますまい」
 新「まだ此のお賤は色気がある、此畜生奴《こんちきしょうめ》、本当にお前や己は、尻尾《しっぽ》が生えて四つん這になって椀《わん》の中へ面ア突込《つっこ》んで、肴《さかな》の骨でもかじる様な因果に二人とも生れたのだから、お賤|手前《てめえ》も本当にお経でも覚えて、観音さまへ其の身の罪を詫る為に尼に成り、衣を着て、一文ずつ貰って歩く気になんな、今更外に仕方がないからよ」
 賤「なんだね厭だよ、そんな事が出来るものか」
 新「そう側へ寄って呉れるなよ、どうか私の頭髪《あたま》を剃《す》って下さい」
 尼「まア/\三四日|此寺《こゝ》に泊っておいでなさい、又心の変るものだから、互に喧嘩をしないで、私はお経をあげに往ってくるから、少し待っておいでなさい」
 新「私も一緒に参りましょう」
 賤「おい新吉さんお前本当にどうしたんだえ、私は何《ど》うしてもお前の傍《そば》は離れないよ」
 新吉はもう誠に仏心《ぶっしん》と成りまして、
 新「お前はまだ色気の有る人間だ、己は真《しん》に改心する気に成った」
 賤「本当にお前どうしたんだよ」
 と云いながら取り縋《すが》るのを、新吉は突放《つきはな》し、
 新「此ん畜生奴、己の側へ来ると蹴飛すぞ」
 といわれお賤は腹の中にて、私の顔貌《かおかたち》が斯《こ》んなに成ったものだから捨てゝ逃げるのだと思うから油断を致しませんで、此寺《こゝ》に四五日居りまする中《うち》に、因果のむくいは恐ろしいもので、惣右衞門の忰惣吉が此の庵室を尋ねて参るという処から、新吉はもう耐《こら》え兼ねて、草苅鎌を以て自殺
前へ 次へ
全260ページ中243ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング