致しますという、新吉改心の端緒《いとぐち》でございます。

        九十

 偖《さ》て申し続きました深見新吉は、お賤を連れて足かけ五年間の旅中《たびちゅう》の悪行《あくぎょう》でございまする、不図《ふと》下総の塚前村と申しまする処の、観音堂の庵室に足を留《とめ》る事に成りました。是は藤心村の観音寺という真言寺《しんごんでら》持《もち》でございまして、一切の事は観音寺で引受けて致しまする。村の取附《とりつき》にある観音堂で、霊験《れいげん》顕著《あらたか》というので信心を致しまする者があって種々《いろ/\》の物を納めまするが、堂守《どうもり》を置くと種々の悪い事をしていなくなり、村方のものも困って居る処で、通り掛った尼は身性《みじょう》も善いという処から、これを堂守に頼んで置きました。是へ新吉お賤が泊りましたので、比丘尼《びくに》は前名《ぜんみょう》を熊と申す女に似気《にげ》ない放蕩無頼を致しました悪婆《あくば》でございまするが、今はもう改心致しまして、頭髪《あたま》を剃《そ》り落し、鼠の着物に腰衣を着け、観音様のお堂守をして居る程の善心に成りまして、新吉お賤に向って、昔の懴悔話をして聴かせると、新吉が身の毛のよだつ程驚きましたは、門番の勘藏の遺言に、お前は小日向服部坂上の深見新左衞門という御旗下の次男だが、生れると間もなくお家改易になったから、私が抱いて下谷大門町へ立退《たちの》いて育てたのだが、お家改易の時お熊という妾があって、其の腹へ出来たは女という事を物語ったが、そんなら七ヶ年|以来《このかた》夫婦の如く暮して来たお賤は、我が為には異腹《はらちがい》の妹《いもと》であったかと、総身《そうしん》から冷《つめた》い汗を流して、新吉が、あゝ悪い事をしたと真《しん》以《もっ》て改心致しました。人は三十歳位に成りませんければ、身の立たないものでございまする。お賤は二十八、新吉は三十になり、悪い事は悉《こと/″\》く仕尽した奴だけあって、善にも早く立帰りまして、出家を遂《と》げ、尼さまの弟子と思って下さい、夫婦の縁は是限りと思って呉れお賤|汝《てめえ》も能く考えて見ろ、今までの悪業《あくごう》の罪障消滅《つみほろぼ》しの為に頭を剃りこぼって、何《ど》の様な辛苦修行でもし、カン/\坊主に成って今迄の罪を滅《ほろぼ》さなくっちゃア往《い》く処へも往かれねえから、己の
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