ぶり返すといかんから看病人に姉でも呼ぼうか」
きわ「でも仕合せに新五郎が参っては寝ずに感心に看病致します、あれは誠に感心な男で、店がひけると薬を煎じたり何か買いに行ったり、何も彼《か》も一人で致します」
惣「なに新五郎がお園の部屋へ這入ると、それはいかん、それは女部屋のことはお前が気を附けて小言を云わなければなりません、それは何事も有りはしまいが」
きわ「有りはしまいたって新五郎はあの通りの堅人《かたじん》ですし、お園も変人ですから、変人同士で大丈夫何事もありはしません」
惣「それはいかん、猫に鰹節で、何事がなくっても、店の者や出入《でいり》の者がおかしく噂でも立てると店の為にならぬから、きっと小言を云わんければならぬ」
きわ「それじゃア女中部屋へ出入を止《と》めます」
と云って居る所へ、何事も存じません新五郎が帰って来て、
新「ヘエ只今帰りました」
惣「何処《どこ》へ往った」
新「番頭さんがそう仰しゃいますから、上野町《うえのまち》の越後屋《えちごや》さんの久七《きゅうしち》どんに流れの相談を致しまして、帰りにお薬を取って参りましたが、山田さんがそう仰しゃるには、お園さんは大分|好《よ》い塩梅だが、まだ中々大事にしなければならん、どうも少し傷寒《しょうかん》の性《たち》だから大事にするようにと仰しゃって、今日はお加減が違いましたからこれから煎じます」
惣「お前が看病致しますか」
新「ヘエ」
惣「お前の事だから何事もありますまいがネけれどもその、お前もそれ廿一、ね、お園は十九だ、お互に堅いから何事も無かろうが、一体|男女《なんにょ》の道はそういうものでない、私の家《うち》は極《ご》く堅い家であったけれども、やっぱりこれにナ許嫁《いいなずけ》が有ったが、私がつい何して、貰うような事で」
きわ「何を仰しゃる」
惣「だから堅いが堅いに立たぬのは男女の間柄、何事もありはしまいが、店の若い者がおかしく嫉妬《やきもち》をいうとか、出入の者がいやに難癖を附けるとか、却って店の示しにならぬからよろしくないいかにも取締りが悪い様だからそれだけはナ」
新「ヘエ薩張《さっぱり》心付きませんかったが、店の者が女部屋へ這入っては悪うございますか、もうこれからは決して構いませんように心づけます、決して構いません」
惣「決して構わんでは困ります、看病人が無いから決
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