《ど》うも水の出端《でばな》でございます。又お園は柔和な好《よ》い女、
新「あゝいう女を女房に持ちたい」
と思うと何《ど》ういう因果因縁か、新五郎がお園に死ぬほど惚れたので、お園の事というと、能く気を付けて手伝って親切にするから、男振《おとこぶり》は好《よ》し応対も上手、其の上柔和で主人に気に入られて居るから、お園はあゝ優しい人だと、新どんに惚れそうなものだが、敵同士とはいいながら虫が知らせるか、お園は新五郎に側へ来られると身毛立《みのけだ》つほど厭に思うが、それを知らずに、新五郎は無暗《むやみ》に親切を尽しても、片方《かた/\》は碌《ろく》に口もききません。主人もその様子を見て、
惣「お園はまことに希代《きたい》だ、あれは感心な堅い娘だ、あれは女中のうちでも違って居る、姉は何だか、稽古の師匠で豐志賀《とよしが》というが、姉妹《きょうだい》とも堅い気象で、あの新五郎は頻《しき》りとお園に優しくするようだが」
と気は附いたけれども、なに両人《ふたり》とも堅いから大丈夫と思って居りまするくらいで、なか/\新五郎はお園の側へ寄付《よりつ》く事も出来ませんが、ふとお園が感冐《ひきかぜ》の様子で寝ました。すると新五郎は寝ずにお園の看病をいたします。薬を取りに行ったついでに氷砂糖を買って来たり、葛湯《くずゆ》をしてくれたり、蜜柑《みかん》を買って来る、九年母《くねんぼ》を買って来たりしてやります。主人も心配いたして、
惣「おきわ」
きわ「はい」
惣「お園は何も大した病気でもないから宿へ下げる程でもなし、あれも長く勤めておることだから、少しの病気なれば、医者は此方《こっち》で、山田さんが不都合なら、幸庵《こうあん》さんを頼んでもいゝが、何《なん》だね、誠にその、看病人が無くって困るね」
九
きわ「私《わたくし》が折《おり》に園の部屋へ見舞に参りますと、直ぐ布団の上へ起きなおりまして、もうなに大《おお》きに宜しゅうございますなどゝ云って、まことに快《よ》い振《ふり》をして居るから、お前無理をしてはいけないから寝ておいでと申しましても、心配家《しんぱいか》でございますから私も誠に案じられます」
惣「そりゃア誠に困ったものだ、誰《たれ》か看病人が無ければならん、成程|己《おれ》も時に行って見ると、ひょいと跳起《はねお》きるが、あれでは却《かえ》って
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