して構わんと云ってはお園が憫然《かわいそう》だから、それはね、ま構ってもいゝがね、少しそこを何《ど》うか構わぬ様に」
何だか一向分りませんが少しは構ってもよいという題が出ましたから、新五郎は悦びながら女部屋へ往って、
新「お園どん山田様へいってお薬を戴いてきたが、今日はお加減が違ったから、生姜《しょうが》を買ってくるのを忘れたが今|直《じき》に買って来て煎じますが、水も只では悪いから氷砂糖を煎じて水で冷して上げよう、蜜柑も二つ買って来たが雲州《うんしゅう》のいゝのだからむいて上げよう、袋をたべてはいけないから只|露《つゆ》を吸って吐出《はきだ》しておしまい、筋をとって食べられるようにするから」
園「有難う、新どん後生《ごしょう》だから女部屋へ来ないようにしておくんなさい、今もおかみさんと旦那様とのお話もよく聞えましたが、店の者が女部屋へ這入ってきては世間体が悪いと云っておいでだから、誠に思召《おぼしめし》は有難いが、後生だから来ないようにして下さい」
新「だから私が来ないようにしよう構わぬと云ったら、旦那が来なくっちゃア困る、お前さんが憫然《かわいそう》だから構ってやってくれと仰しゃったくらい、人は何といっても訝《おか》しい事がなければ宜しいから、今薬を煎じて上《あげ》るから心配しないで、心配すると病気に障るからね」
園「あゝだもの新どんには本当に困るよ、厭だと思うのにつか/\這入って来てやれこれ彼様《あんな》に親切にしてくれるが、どういう訳かぞっとするほど厭だが、何《ど》うしてあの人が厭なのか、気の毒な様だ」
と種々《いろ/\》心に思って居ると、杉戸《すぎど》を明けて、
新「お園どんお薬が出来たからお飲みなさい、余《あんま》り冷《さま》すときかないから、丁度飲加減を持って来たが、後《あと》は二番を」
園「新どん、お願いだから彼方《あっち》へ行って下さいな、病気に障りますから」
新「ヘエ左様でげすか」
と締めて立って行《ゆ》く。
園「どうも、来てはいけないと云うのに態《わざ》と来るように思われる、何だか訝《おか》しい変な人だ」
と思って居ると、がらり、
新「お園どんお粥が出来たからね、是は大変に好《い》いでんぶを買って来たから食べてごらん、一寸《ちょっと》いゝよ」
園「まア新どんお粥は私一人で煮られますから彼方《あっち》へ行って下さいよ、
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