富「左様どうして是を」
 花「是は手前《てまえ》が刀を抜いてちょん/\切合ったという後《あと》で丁度其の側を通り掛って此の刀を拾うたが、些《ちっ》とも抜けない、此の抜けない脇差をどうして抜いて切合ったかそれを聴こう」
 富「それア、それア私《わし》が転倒《てんどう》致した」
 花「何が転倒した」
 富「それは私《わし》は大勢を相手に切結んでおり、夜分でげすから能く分りませぬが、全く鞘の光を見て抜身と心得ましたかも知れませぬが、私が手引をして…是は怪《けし》からん事でげす、どうも左様な御疑念を蒙りましては残念に心得ます」
 花「そら/\手前《てめえ》のいうことは皆《みんな》間違っていらア、鞘の光を見て抜身で切合ったと思ったというが、鞘ごと切れば鞘に疵がなけれアならねえ、芒尖《きっさき》から火花を散《ちら》したというが鞘ごと切合ってどうして火花が出るい」
 富「じゃア全く転倒致したのでげす、全く向《むこう》同士ちょん/\切合って火花が出たのでげしょう、大勢の暗撃《やみうち》で向同士…どうも左様な手引をして殺したという御疑念は手前少しも覚《おぼえ》がございません」
 花「なに云わなけりゃア脊骨を殴《どや》して飯を吐《はか》せても云わせるぞ」
 富「アヽ痛い/\痛うござります、アヽ痛い、腕が折れます、ア痛い」
 花「さ、云って了《しま》え、云わなければ殴すぞ」
 富「アヽ痛うござります」
 花「やい能く考えて見ろ、実は大恩があるのに済みませぬが、旦那は私《わし》が手引をして殺させました、其の申訳《もうしわけ》の為に私は坊主になって旦那の追善供養を致しますといえば、お内儀様《かみさん》に命乞《いのちごい》をして命だけは助けて遣るから、一角が殺したと云ってしまえよ」
 富「云って了《しま》えと仰しゃっても、あゝ痛い痛うございます、だから私《わし》は申しますがね、あ痛い是はどうも恐入ったね、あゝ痛い、腕が折れます、あゝ申します/\、申しますからお放し下さい然《そ》う手をぐっと関取の力で押えられると骨が折れてしまいますから、アヽ痛いどうも情ないとんだ災難でげす、無実の罪という事は致し方がないなア、関取能くお考えください、私《わたし》は恥をお話し致しますよ、昨年夏の取付《とッつ》きでげしたが、瓜畑を通り掛りまして、真桑瓜を盗んで食いまして、既《すで》に縛られて生埋になる処を、旦那
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