お前さんは見ただろうねえ」
富「そりゃア見ましたとも、旦那はお手利《てきゝ》でげすからちょん/\/\/\切合いました」
花「それに相違ないねえ」
富「相違も何もありません、現在|私《わし》が見ておったから」
花「うん然《そ》うかえ、富さん、もっと側へお出でなさい、今日は一杯[#「一杯」は底本では「一抔」]飲みましょう」
富「それは誠に有難いことで、時に何かお頼みがあるという事でげすが早速取立てましょう、なに造作もないことで」
花「それに付いて種々《いろ/\》話があるのだがもっと側へ」
富「じゃア御免を蒙《こうむ》って」
花「さて富さん、人と長く付合うには嘘を吐《つ》いてはいかないねえ」
富「それは誠に其の通り信がなくてはいけませぬねえ」
花「今お前のいったのは皆嘘と考えて居る、旦那様が脇差を抜いてちょん/\切合い、お前も切結んだと、そんな出鱈目《でたらめ》の事をいわずに正直なことをいってしまいねえ」
富「な何《な》んだ、これは恐入ったね、どうも怪《け》しからん事を、ど、どういう訳でな何んで」
花「やい、それよりも正直に、慾に目が眩《くら》んで一角に頼まれて恩人の惣次郎を私《わし》が手引で殺させましたといっちまいねえ」
富「これは怪しからん、怪しからん事があるものだね、関取外の事とは違います、私《わし》は一角という者は存じませぬ、知りもしない奴に仮令《たとえ》どの様な慾があっても、頼まれて旦那様を殺させたろうという御疑念は何等《なんら》の廉《かど》を取って左様なことを仰しゃる、と関取で無ければ捨置けぬ一言《いちごん》、手前も元は武士でござる、何を証拠に左様な事を仰せられるか、関取承りたいな」
花「嘘《そら》つくない、正直にいってしまいな、手前《てめえ》が鼻薬を貰って、一角に頼まれて旦那を引き出したといってしまえば、命|許《ばか》りは助けてやる、相手は一角だから敵《かたき》を打たせる積りだが、何処迄《どこまで》も隠せば、拠《よんどころ》なくお前《めえ》の脊骨を殴《どや》して飯を吐かしても云わせにゃならん」
富「これはどうも怪しからん、関取の力で打たれりゃア飯も吐きましょうが、ど、どういう訳で、怪しからん、なな何を証拠に」
花「そんなら見せてやろう、是は其の時旦那の帯《さ》して行った脇差だろう、これを帯して出た事は聞いて来たのだ、さどうだ」
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