がら少し訳があって遅く参りました、まア御免なせえ」
 多「さア此方《こっち》へお這入り」
 というので風呂敷包を提げたなり奥へ参ります。来てみると香花《こうはな》は始終絶えませぬから其処《そこ》らが線香|臭《くそ》うございます。
 多「お内儀さん法恩寺の関取が参りましたよ」
 母「やア花車が来たかい、さア此方《こっち》へ這入っておくんなせえ」
 花「はい、お内儀さん何《なん》とも此の度《たび》は申そう様もございません、さぞ御愁傷様でございましょう」

        六十五

 母「はい只どうもね魂消《たまげ》てばいいます、お前も知っている通り小《ちい》せえ時分から親孝行で父様《とっさま》アとは違って道楽もぶたなえ、こんな堅い人はなえ、小前《こまえ》の者にも情《なさけ》を掛けて親切にする、あゝいう人がこんなハア殺され様をするというは神も仏もないかと村の者が泣いて騒ぐ、私《わし》もハア此の年になって跡目相続をする大事な忰にはア死別《しにわか》れ、それも畳の上で長煩《ながわずら》いして看病をした上の臨終でないだから、何《なん》たる因果かと思えましてね、愚痴い出て泣いてばいいます、それにお隅は自分の部屋にばい這入って泣いて居るから、此間《こねえだ》もお寺へ行ったら法蔵寺の和尚様ア因果経というお経を読んで聴かせて、因果という者アあるだから諦めねばなんねえて意見をいわれましたが、はアどうも諦めが付かなえで、只どうも魂消てしまって、どうかまアこういう事なら父《とッつ》アんの死んだ時一緒に死なれりゃア死にたかったと思えますくらいで」
 花「はい、私《わし》もねえお寺詣りには度々《たび/\》参ります、それも一人で、実は人に知れない様に参りました、是には深い訳のあることで、私が不実で来ないと思って定めて腹を立てゝお出でなさるとは知っていますが、少し来ては都合の悪い事があって来ませぬ、お前さん私は今まで泣いたことはありません、又大きな身体《なり》をして泣くのは見っともねえから、めろ/\泣きはしませんけれども、外《ほか》に身寄兄弟もなし、重吉手前とは兄弟分となって、何《な》んでもお互に胸にある事を打ち明けて話をしよう、力になり合おうといっておくんなさいました、其のお前さん力に思う方に別れて、実に今度ばかりは力が落ちました、墓場へ行って花を上げて水を手向《たむ》けるときにも、どうも愚痴の様
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