だけれども諦めが付かないでついはア泣きます、まア何んともいい様がありません、嘸《さぞ》お前さんには一《ひ》と通りではありますまい、お察し申しております、お隅さんも嘸御愁傷でしょう」
母「はい私《わし》の泣くのは当り前のことだが、あのお隅は人にも逢わなえで泣いてばいおるから、そう泣いてばいいると身体に障るから、些《ちっ》と気い紛《まぎ》らすが宜《え》え、幾ら泣いても生返《いきけえ》る訳でなえというけれども、只|彼処《あすこ》へ蹲《つくな》んで線香を上げ、水を上げちゃア泣いてるだ、誠にハア困ります」
花「はいお隅さんを一寸|茲《こゝ》へお呼びなすって下さい」
母「お隅やちょっくり此処《こゝ》へ来《こ》うや、関取が来たから来うや」
隅「はい/\」
母「さア此処《こけ》へ来《き》や、待ってるだ」
隅「関取おいでなさい」
花「はいお隅さんまア何《な》んとも申そう様はありません、とんだことになりました、嘸《さ》ぞお力落しでございましょう」
隅[#「隅」は底本では「花」]「はい、もうね毎日お母《っか》さんと貴方の噂ばかり致しまして、どうしておいでなさいませんか、何かお心持でも悪いことがありはしまいか、よもや知れない事もあるまいが、何か訳のある事だろうと、お噂を致しておりましたが実に夢の様な心持でございましてねえ、それは貴方とは別段に中が好《よ》くってねえ、旦那が毎《いつ》も疳癪《かんしゃく》を起しておいでなさる時にも、関取がおいでなさいますと、直《すぐ》に御機嫌が直って笑い顔をなさる、こうやって関取が来ても旦那様がお達者でいらしったら嘸お喜びだと存じまして、私は旦那の笑顔が目に付きます」
母「これ泣かないが宜《え》え、そう泣かば病に障るからというのに聞かなえで、彼《あ》の様に泣いてばいいるから、汝《われ》が泣くから己《おら》がも共に悲しくなる、泣いたって生返《いきけえ》る訳エなえから諦めろというだ、ねえ関取」
花「ヘエ、御愁傷の処は御尤でございますが、お隅さん、旦那をば何者が殺したという処の手掛《てがゝり》は些《ちっ》とはございますか」
隅「もう関取の処へ早く行《ゆ》き度《た》いというのが、御用があって二日ばかり遅くなりましたから、是から富五郎を供に連れて関取にお目に掛りに参ると仰しゃるから、今日は大分《だいぶ》遅いから明日《あす》になすったら好《よ》かろう
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