、斬った奴は疾《とう》に家《うち》へ帰って寝ている時分、百姓|衆《しゅ》が大勢行って見ると、情ない哉《かな》惣次郎は血に染って倒れておりますから、百姓衆も気の毒に思い、死骸を戸板に載せて引き取り、此の事を代官へ訴え、先《ま》ず検視も済み、仕方なく野辺送りも内葬の沙汰で法蔵寺へ葬りました。是程の騒ぎで村の者は出掛けて追剥《おいはぎ》の行方を詮議致し、又四方八方八州の手が廻ったが、殺した一角は横曾根村に枕を高く寝ておりまするので容易に知れません。惣次郎と兄弟分になった花車重吉という角力は法恩寺村にいて、場所を開こうという処へ此の騒ぎがあるのに、とんと悔《くや》みにも参りませんから、母も愚痴が出て
 母「あゝ家《うち》の心棒《しんぼう》がなくなれば然《そ》うしたもんか、情ないもの」
 と愚痴たら/″\。そうこうすると九月八日は三七日《みなのか》でござります、花車重吉が細長い風呂敷に包んだ物を提げて土間の処から這入って参りまして、
 花「はい御免なせい」
 多「いやお出でなさえまし」
 花[#「花」は底本では「多」]「誠に大分《だいぶ》御無沙汰致しました」
 多「家《うち》でもまア何《ど》うしたかってえねえ、一寸知らせるだったが、家がまア忙《せわ》しくって手が廻らないだで、まア一人で歩いてることも出来なえから誠に無沙汰アしましたが、旦那様ア殺された事は貴方《あんた》知って居るだね」
 花「誠にまア何《なん》とも申そう様《よう》はございません、知って居りましたが旦那と私《わし》とは別懇の間柄だから、私が行って顔を見ればお母様《っかさま》やお隅さんに尚更|歎《なげ》きを増させるような者だから、夫故《それゆえ》まア知っていながら遅くなりました、多助さん、飛んだ事になりましたね」
 多「飛んだにも何《なん》にも魂消《たまげ》てしまってね、お内儀様《かみさん》はハア年い取ってるだから愚痴イいうだ、花車は内に奉公をした者で、殊に角力になる時前の旦那様の御丹精もあるとねえ、惣次郎とは兄弟じゃアねえか、それで此の騒ぎが法恩寺村迄知んねえ訳ア無《ね》え、知って来ないは不実だが、それとも知んねえか、江戸へでも帰《けえ》った事かとお内儀《かみ》さんあんたの事をば云って、ただ騒いでいるだ、どうか行って心が落ち着くように気やすめを云って下さえ、泣いてばいいるだからねえ」
 花「はい、来たいとは思いな
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