仰せの如く名主役をも勤むる者が、少しは其の辺の心得がなくては勤まらぬ、小前の者が分らん事でもいう時は、呼寄せて理解をも云い聞けべきの役柄だ、然《しか》るにずん/\行《ゆ》くという法はない、是は、イヤ先生御立腹御尤もだ是は幾ら被仰《おっしゃ》っても宜しい、お腹立御尤もの次第で」
惣「重々御尤もで相済みません、御尤至極でござります、どうか御勘弁を願います」
安「只勘弁だけでは済むまい、苟《かり》にも武士の魂とも云う大切の物、手前達は何か武士が腰に帯《たい》して居る物は人斬庖丁《ひときりぼうちょう》などゝ悪口《あっこう》をいうのは手前の様な者だろうが、人を無暗《むやみ》に斬る刀でないわ、えゝ戦場の折には敵を断切《たちき》るから太刀《たち》とも云い、片手|撲《なぐ》りにするから片刀《かたな》ともいい、又短いのを鎧通しとも云う、武士たるものが功名《こうみょう》手柄を致す処の道具、太平の御代に、一事一点間違を致せば直《すぐ》にも切腹しなければならぬ大切の腰の物じゃ、それを人斬庖丁など悪口をいいおるから挨拶もせずに行ったのだ、それに違いなかろう、ナア」
連の男「是は先生至極御尤も、怪《け》しからんこと、何《なん》だ、え、何《ど》うもその、武士たるべき者の腰に帯《たい》するものを人斬庖丁などゝは以《もっ》ての外《ほか》だ、太平なればこそよいが、若し戦場往来の時是をエヽ、太刀とも唱える、片刀ともいう、今一つ短いのは何《なん》でしたッけ、うむ鎧通しともいう、一事一点間違があれば切腹致すべき尊《とうと》い処の腰の物、それを何《なん》だ無礼至極、どの様に仰しゃっても宜しい」
惣「重々恐入りましたが何分御勘弁になります事なれば、どの様にお詫を致して宜しいか頓と心得ませんが」
安「刀を浄《きよ》めて返せ、浄まれば許して遣《つか》わす」
惣「どの様に致せば浄まります事か、百姓|風情《ふぜい》で何も存じませんで」
安「知らんという事が有るか、浄めて返さんうちは勘弁|罷《まか》り相成らぬ」
惣次郎もつく/″\困りましたが、お隅は平素《ふだん》から一角は酒の上が悪く我儘《わがまゝ》なのを知っております、また女が出ると柔《やわら》かになる事も存じているから、却《かえ》って斯《こ》う云う時は女の方が宜《よ》かろうと思って、後《あと》の方からつか/\と進み出まして、
隅「先生誠に暫く」
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