ッと癪に障り、何か有ったら関係《かゝりあい》を付けようと思っている。此方《こちら》では御飯が済んだから帰り掛《がけ》に花車の家《いえ》に往《ゆ》こうというので急いで出る、お隅も安田が来ているのを認めましたから気味が悪く早く帰ろうと思うので、奥から出て廊下へ来ると、何《ど》うしても其処《そこ》を通らなければ出られないから、安田はわざと三人の刀の鐺《こじり》を出して置きますと、長い刀の柄前《つかまえ》にお隅が躓《つま》づきましたのを見ると、
 安「コレ/\待て、コレ其処へ行《ゆ》く者待て」
 惣「ヘエ/\私《わたくし》でございますか」
 安「手前|何処《どこ》の者か知らんけれども、人の前を通る時に挨拶して通れ、殊《こと》にコレ武士の腰に帯《たい》して歩く腰の物の柄前に足をかけて、麁忽《そこつ》でござると一言《ひとこと》の謝言《わびごと》も致さず、無暗《むやみ》に参ることが有るか、必定心有ってのことだろう」
 惣「ヘイ頓《とん》と心得ませんで…お前|疎忽《そこつ》だからいけない、お武家様のお腰の物に足をかけて何《なん》のことだね、ヘイ何《ど》うも相済みませんでございました、つい取急ぎまして飛んだ不調法を致しました、当人に成代りましてお詫《わび》を申上げます、何分御勘弁を願います」
 安「なに詫を申すなら何処の者か姓名も云わず、人に物を詫びるには姓名を申せ、白痴《たわけ》め」
 惣「ヘエ、手前は羽生村の惣次郎と申す何も弁《わき》まえませぬ百姓でございます」
 安「なに、羽生村の惣次郎、うむ名主だな、イヽヤ名主だ、羽生村にて外《ほか》に惣次郎と云う名前の者は無い様だ、名主役をも勤むる者が人の前を通る時には御免なさいとかお先《さ》きに参るとか何《なん》とか聊《いさゝ》か礼儀会釈を知らぬ事も有るまい、小前《こまえ》の分らぬ者などには理解をも云い聞けべき名主役では無いか、それが殊《こと》に武士《さむらい》の腰の物を足下《そっか》にかけて黙って行《い》くと云う法が有るか、咎《とが》めたらこそ詫もするが、咎めずば此の儘《まゝ》行《ゆ》き過ぎるであろう、無礼至極の奴、左様ではござらんか仁村《にむら》氏《うじ》」
 仁「是はお腹立の処|御尤《ごもっと》も是は何も横合から指出《さしで》て兎や角いうではないが、けれども斯《こ》ういう席だから、何も先生だって大したお咎をなさる訳でもあるまいが、今
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